カゲプロ


□籠の鳥
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※奇病注意


からり。
真っ白い廊下から真っ白い部屋へ。
同じ色の筈なのになんとなく雰囲気が違うのは何故だろうとまた不思議に思った。
「セト」
「こんにちは」
また来たのかと呆れるシンタローさんは昨日と何ら変わらない。
平然と、いつもの無愛想を装う。
「これ、今日の分っす」
「サンキュ」
小さな袋をサイドテーブルに置き、ついでに花瓶の水を換えに一度病室を出た。
から。
控えめな音に気付かずに、否、気付けずにシンタローさんは右腕を押さえていた。
「痛むんすね」
「…大丈夫だよ」
今更隠しても。
そう思うがシンタローさんは相変わらず強がり続ける。
目線を落として今漸く白いシーツに散らばる羽根に気付いた。
「すいません、薬少なくて」
「お前が謝る必要ねぇよ。無理頼んでるのはオレだ」
只でさえ花だらけなのにな、お前の部屋。
そう苦笑する彼の肩からお気に入りのジャージが滑り落ちた。
「…悪い、掛け直してくれないか」
「はい」
窓際に近付く。
やはり白に満たされた中で、彼の黒とジャージの赤が酷く浮いていた。
シンタローさんはもう指を自由に動かせない。
全くという訳ではないが、激痛が伴うそうだ。
冒されているのは両腕共、しかし進行が早いのは利き手だった右だ。
遠目には以前と大して変わらない彼は、既に最低限の生活能力を奪われていた。
「寒くないっすか?」
「肩が少し」
「じゃあ明日ストールか何か持って来るっす」
「悪いな」

シンタローさんは、今までに片手で足りる程しかケースのない奇病に罹った。
俗に籠目と呼ばれる、痛みと共に腕が翼へと徐々に変わっていく病。
完全に治す方法は無く、花の種だけが痛みを和らげ進行を遅めてくれる。
俺はシンタローさんに頼まれ薬にする種を育てていた。
出来るだけ毎日薬を届けている。
けれど進行は緩々と進み、もう肘から下は殆ど翼だった。

「正に籠目だよな」
これじゃ籠の中の鳥だ。
思い通りに動くことも出来ねぇし、翼が生えてもどうせ飛べやしないんだぜ?
いつも無理に振る舞う彼が一度だけぱさりと零した時。
俺はただ黙ってシンタローさんの髪を梳いていた。
内心で弱気を見せてくれたのが俺だけならば嬉しい等と思いながらその時、俺は本気で掛けるべき言葉が解らなかったのだ。

シンタローさんが小さな籠に閉じ込められてから約二年。
シンタローさんの腕は肩近くまで白い羽に覆われた。
白い部屋と白い羽の中で昔より更に細くなった体躯がぼんやりと浮かび上がる。
最近彼は寝ていることが多かった。
主治医の話では、身体が変化に付いていっていない為に衰弱し始めているらしい。
それはシンタローさんも入院した頃から自分で言っていたことだった。
そして彼はまた、その先も冷静に見据えていた。

「あと半年だとさ」
「…そうっすか」
何が、とは言われずとも解った。
医師から明確に宣告される前にシンタローさんからそのぐらいだと思う、と告げられていたから心の準備もある程度整ってはいた。
だから事実の受け入れは驚く程あっさりと済んだし、そもそもそうでなければ彼が前もって宣告した意味が無い。
けれど彼が余りにも静かに言うものだから、何だか俺が泣きそうになる。
白い部屋には新しく点滴の透明が増えていた。
「セト」
「はい」
「こっち来てくれ」
「…はい」
少し驚いた。
シンタローさんは普段俺を寄せたがらないからだ。
それは彼が口には出さずとも自らの病気を酷く嫌っていた所為なのだろうと勝手に思っているが。
俺はサイドボードに近付く時以外は基本壁際で会話していた。
久々に間近でじっくりと見たシンタローさんは、やっぱり折れそうで消えてしまいそうだった。

「セト、お前オレのこと大好きだよな」
「ええ。シンタローさんもっすよね」
ああそうだな。嬉しいっす。
壊さない様に抱き締めて笑って、そんな言葉の応酬をして。
当たるふわりとチクチクした感触は無視した。
「セト」
一度離して深い黒を見詰める。
変わらない意志を湛えた瞳がふっと和らいだ。
「大好きだよ、ずっと」
「――はい」
答を込めてキスをした。
柔らかい唇は甘くはなく、何だか不思議な味だった。
切なく笑う姿が翼を広げた天使に見えたと言えば、彼はどんな反応を返すのだろう。



END



―あとがき―

前からやってみたかった奇病パロでした
奇病の設定は結構前に診断メ●カーさんで出た奴を使わせて頂きました
衰弱云々は私の付け足しです
人間の腕が無理に翼に変わったりしたら相当ダメージくるだろってことで
名前は私の思いつきで勝手に付けさせて貰いました
本当にただの思いつきです

しかし楽しかった
あんまり奇病設定を生かせなかったのが辛いですが、腕が翼になったシンタローは割とただの天使だと思いました
あとこのシンタローは当社比(重要)で男前な性格になってます
受けが可愛くなりすぎる私としては満足です
逆にセトは少し大人しくし過ぎた感ありますけど
とにかく楽しかったです

それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました                            

 

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