カゲプロ


□それはただの御伽噺
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※パロ


また、この季節がやってきた。
いつもは会えない貴方に、ただひたすら恋い焦がれる季節が。


厳しい寒さも少しずつ緩み、桜が蕾を堅め始める。
朱や薄桃、浅黄に金。
柔らかく明るい色彩に部屋が彩られる。
彼はそんな花々の中、周囲に負けず美しい少女と寄り添い座っていた。
相変わらず唇は引き結ばれ、整えられた顔には表情がない。
一様に微笑む周りと何か一線を画している。
その他大勢と同じく笑みを浮かべたままの俺は、ただ彼を見上げ見つめる。
ずっと変わらない、この季節。


いつもの季節が再びやって来た。
彼に焦がれ始めてから一体どれほどの年月が経ったのだろうか。
変わらない俺達に較べて今年は周囲がやや賑やかだ。
どうやら主人がまた替わるらしい。
小さな頬を桃色に染めた幼い少女がはしゃいでいる。
彼女が次の主人なのだろう。
微笑ましい姿に唇の端を持ち上げた。
彼にも優しげな表情が浮かんだのはきっと俺の気のせいじゃない。


いつかの少女は美しく穏やかな母親になった。
近頃世の中も大きく変わった。
一年で一時期しか世間の様子を、それも人伝でしか知ることが出来ない俺には具体的にどうなんて判らないが。
それでも部屋に集まる人々の様子が昔とは違うのはなんとなく理解できた。
人の数が減った。
若い者は皆同じ様な端末を手に持って俯き人を見ない。
広い空間はそのままがらりとした印象を与え、空気は何処となく冷えている。
それが妙に寂しく感じて俺はひそりと眉を下げて変わらない彼を見上げた。
彼は相変わらず、静かに正面を見据えている。


更に時が流れた。
初代の主人が逝ってからもうかなり経つ。
俺は、否、俺達は、何世紀と過ごした家から出されて薄く埃を被ったガラスの内側にいた。
どうやら売られてしまったらしい。
長く同じ時を共にした仲間達も一人、また一人と減り、遂に俺と彼だけになった。
仲睦まじげに彼と並んで優しい笑みを浮かべていた彼女も、俺の隣に座っていたお調子者のあいつも。
皆いなくなってしまった。
ふと戸が開く。
ええそうなんですよ、一人だけ足りなくてね。
そんな会話が聞こえた。
ああ、俺ももう。

絹布に包まれた。
最後にやっと上ではなく隣になった彼を見やる。
彼はやはり前だけを見つめていた。

さよなら、伸太郎さん。

言葉がするりと抜け出た。
届かせようとするつもりのない、独り言のようなそんな声。
けれど彼が一瞬そっと瞳を閉じて囁いた。

じゃあな、瀬戸。

最初で最期、幾年も経て初めて交わした会話。
たった六文字だったとしても俺にはそれで充分だと想えたんだ。



END


14.7.9 こっそり加筆修正


―あとがき―

季節感?今更ですね
気にしたら負けです

しかしこういう文が半端なく苦手なので客観的に見てどう映るのかも全く解りません
なんとなく解るような解らないような話が目標です

かなりノリで書いたんでたぶんんん?ってなるとこあると思います
一応雛人形のつもり
もしも人形に命が宿ったら。
そんな話が好きです
シンタローは言わずもがな、セトは太鼓か謡いがいい

それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました!



Title:infinity
                            

 

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