カゲプロ


□ダブルのコーンでお願いします
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「あれ、シンタローさん?」
「…おかしいなぁ」
意気込んでリンクへ踏み出したはいいのだけれど。
オレはそこから全く動けていなかった。
どうやら久しぶりすぎたせいで感覚を忘れてしまったらしい。
昔は普通に滑れていたのだが、今はどうやったら滑れるのか全然分からない。
「もしかして滑れないの?」
「…感覚忘れた」
「すぐ滑れるようになれるっすよ」
「そうか…?」
お前らとは違ってオレは運動能力が低いんだ。
どうにか端に寄って壁に凭れる。
こうするだけでやっとだった。
そこでカノから提案がなされる。
「僕引っ張ってあげようか?」
「いいのか?」
「勿論!」
正直そうしてもらえると助かる。
そのうち感覚も思い出すだろう。
差し出されたカノの手を取ろうとして突然違う手に阻まれた。
「なら俺が引っ張るっすよ」
「え?」
「ちょっとセト、僕が先に言ったんだけど。セトはマリーとでも滑ってなよ」
「何でマリーなんすか。俺はシンタローさんがいいんす」
「ちょ…」
当事者の話を聞かないで変な争いが始まってしまった。
オレは手伝ってもらえるなら別にどっちでもいいんだけど。
「ほら、さっさと手離しなよ」
「嫌っすよ」
「セト、痛い。つかいい加減にしろお前ら」
「あ、すいません…」
しゅんとなったセトから手が解放される。
少し大人しくなったかと思えばまた意味の解らないことを言われた。
「「シンタローくん(さん)はどっちがいいの(んすか)?」」
だからどっちでもいいよ!
すごく突っ込みたいが口に出せば一段と鬱陶しくなるのが見えている。
一瞬迷ってからカノを選んだ。
「よっしゃ!」
「な、何でっすかシンタローさん」
「カノのが早かったから」
そこかよ、と何故か二人が崩れる。
しかし復活も早かったカノがオレの両手を取ってゆっくり滑り出した。
「わ、ちょ、カノ!」
「大丈夫だよ。しっかり支えてるから」
「あ、ああ」
足下から小さく氷を削る音がする。
少しセトのことが気になったけれど、滑れるようになったらまた誘おうと目の前のカノに集中した。

カノに暫く付き合ってもらったおかげで普通に滑れるようになったのはけっこう早かった。
カノは残念がっていたけど、その後はセトやキド達も交えて皆でわいわい滑った。
セトと勢いよく滑って、結果転んでもつれ合ったのもいい思い出だ。

今は学校で解散した後、五人でアイスを食べながら帰宅中。
寒い中でもアイスは美味しい。
キャラメルリボンとグリーンティーのダブルをつつきながら、ふと隣の二人を連想した。
特に考えて選んだ訳ではいないけど、なんだか色が似ている。
カノは跳ねた猫っ毛の色で、セトはよく着てる緑色。
一旦気づくとそればかり気になってつい笑みが浮かんだ。
なのにこんな時に頭は悩みをはじき出す。
最近よく思う。
ギャグみたいな始まり方をして、だけれど本気の二人をオレは今までずっと流してきた。
だんだん絆されて、男としてはまだ納得しきれなくともこいつらなら恋人でも悪くなさそうだなんて。
いつの間にか嫌悪感とか色々も全部無くなっていて驚いた。
しかしどうしてもぶち当たる壁がある。
もしも恋人になるとしても、どちらと?
等しく告白され続けたオレには二人の間に差がない。
どちらか一人なんて決められないのだ。
突然の告白に頭を抱えていた数ヶ月後にまさかこんな悩みを持とうとは。
自分の気持ちでも解らないことは解らない。
正直一人じゃなく二人を同時に選べたらどんなにいいだろうかと思う。
けれど所詮希望観測。
いつかはきっと答えが必要になってしまう。
はぁ、と白く染まる溜め息を吐いた。
アイスなら簡単にダブルで選べるのに。
本当にどうしようか。
八つ当たり気味にアイスに歯を立ててみても、歯が冷たいダメージを受けるだけだった。



END



―あとがき―

まず一言
何故ギャグの続き物がこんなにシリアスに。
最初はシンタローもだんだん絆されて〜的なのが書きたかっただけのはずだったんですがね…
まあこれはこれでけっこう気に入ってます

ふと思いついたのと意外と如月シンタローの憂鬱が需要あったみたいなのとで書いてみました
しかし高校生に校外学習とかあるんだろうか
そして書いてから高二の冬だと修学旅行は終わってることに気づきましたがぶっちゃけ時系列も何も考えてないんで書くかもしれないです

それではここまで読んで下さってありがとうございました!                            

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