カゲプロ


□ダブルのコーンでお願いします
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「おぉ…!」
眼前にはキラキラと光を反射する大きなスケートリンク。
周りと共にテンションが否応なしに上昇する。
オレは数年ぶりのアイススケートにやってきていた。


「シンタローさん。靴借りに行きましょう」
「ああ」
荷物を置き、セトと更衣室への通路の手前まで戻る。
指を絡めてきた手ははたき落としておいた。
今回は仲間内ではなく、校外学習の帰りに寄っている。
これは茶目っ気溢れる先生達のサプライズで、しかもスケート場は貸し切り状態。
連絡された手袋の用途はここにあったらしい。
入ったシューズ貸し場は既に生徒でごった返していた。
「出遅れちゃったみたいっすね」
「だな」
「シンタローさん、サイズは?」
「25」
人でいっぱいの通路を掻き分け進む。
さり気なく盾になってくれるセトは悔しいが格好いい。
何だかんだこの四ヶ月でかなり絆されてしまった。
そこでもう一人の存在を思い出す。
「そういや、カノは?」
「手袋忘れたって先にそっち借りに行ったっすよ」
「ふーん」
はい、とセトにシューズを渡される。
礼を言ってからそれがやたら綺麗なことに気がついた。
高い所のあまり使われていない物を取ってくれたらしい。
こういう気遣いをオレじゃなくて女子にすればいいのに。
勿体ないと思いながら悪い気はしないのだからオレも大概だ。
自分の分も借りたセトとリンクまで戻り、ベンチに腰掛ける。
さぁ履こうというところで騒がしいのが現れた。
「ちょっとセト!手袋借りる間待っててって言ったじゃん」
「そうでしたっけ?」
「何しらばっくれてんの!しかもシンタローくんとくっつき合ってたしさぁ」
「くっつき合ってなんかねぇよ」
「そうっすよ。カノも早くシューズ取って来たらどうっすか?」
「分かったよ。シンタローくん、絶対待っててね!」
「はいはい」
カノはセトじゃ駄目だと思ったのか、オレに約束を取り付けてから走って行った。
とりあえず靴履こう。
ちょうどオレが両方の靴紐を結び終えたところでカノが戻ってきた。
早いな…。
カノはまたすごい速さでシューズを履くと絶妙なバランスで立ち上がる。
と、思うといきなりベンチに座ったままのオレの前にしゃがんだ。

驚いているオレを余所にカノは結んだばかりの靴紐を手に取る。
「シンタローくん、靴紐歪んでるよ。結び直したげるー」
「あ、ああ」
「ちょっときつくするよ」
自然カノを見下ろす形になった。
無意識に顔を見つめていて、けっこう睫毛長い、なんて思ったところで慌ててカノの手元に目を移す。
今のはちょっとアブナかった。
「――はい、出来上がり」
「さんきゅ」
「どーいたしまして」
綺麗に結い直された靴紐。
立ってみれば予想以上に動きやすかった。
「それじゃあ、行きますか」
オレ達は手袋をはめ、意気揚々とリンクに繰り出した。                            

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