カゲプロ


□並ばない傘
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※未来設定


今日は冷える。
夕方痛感した冷たさは、どうやら雨を報せるものだったらしい。
みるみるうちに空を覆った黒い雲がたくさんの雫を地面に降らせる。
雨は、嫌いだ。
俺をどうしようもなく不安にさせる。
いつものように玄関を見やればやはりいつものように黒い傘が置き去りにされていた。
「……………」
時計の針は8と1を刺している。
普段なら修哉が仕事から帰ってくる時間だ。
俺はまた諦めと意味のないか細い期待を胸に、傘を二つ手に家を出た。


自宅マンションから最寄り駅まで徒歩約十五分。
ざぁと降る雨の雫は跳ね返り、靴を土色に塗り替えていく。
駅に近づくにつれ増える人の波に逆らいながら右手の傘を弄んだ。
改札にほど近い駅ビルのアーケード下。
ここが俺の雨の夜の定位置だった。
修哉の黒い傘は腕に掛けたまま畳んだ自分の傘を立てかける。
改札口がよく見えた。
人々が早足で通り過ぎていく。
金曜日の夜だ。
早く家に帰りたいのだろう。
皆色とりどりの傘で顔を覆うように歩いていた。
見慣れた色素の薄い跳ねた髪は、見えない。


一体どれだけ立っていたのか。
人足がまばらになってきた。
時間が判るものは携帯しか持って来ていない。
それも全く見ていなかった。
ポケットの電子機器は震えることもせず、ただ無意味な重みを感じさせるだけだ。
また時間が過ぎた。
改札口の照明が落とされ、周囲の闇が色濃くなる。
結局今日も、雨に困り顔をした彼なんていなかった。
主のいない黒い傘は一度も開かれないまま。
『つぼみ、大好き。ずっと一緒にいようね。約束だよ』
二人たくさんの祝福の中で誓い合った日。
そう遠くない筈なのに、結んだ像がぼやけてピントが合わない。
「…約束守れよ、ばか修哉」
今ならまだ許すから。
今更頬を雫が流れ落ちた。



END



―あとがき―

久しぶりの小説でしたが、これは割とスムーズに書けました
その代わり少し短めです
解りにくい話ですが(いつものこと)修哉何してんだテメェとかは皆様のご想像にお任せします
私的には最低男っぽいカノが書けて満足でした
目指せ最高に最低なゲスカノ

ちなみに、この話はYUIさんのUmbrellaという曲のイメージで書かせていただきました
大好きな曲なので楽しかったです

それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました!                            
 

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