カゲプロ


□心からの祝福を
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※捏造注意です


「寒い…」
「シンタローさん、暑さ寒さに弱すぎっすよ」
「体育会系とヒキニート比べんな」
『しかしご主人、夏は暑くて駄目、冬は寒くて駄目、じゃいつまで経っても外に出れませんよ』
「出ないからいい」
十一月も終わりに入った。
この頃急に冷たくなった空気は身体を容赦なく刺してくる。
そんな絶好の引きこもり日和に、オレは相も変わらずメカクシ団の連中と出掛けるはめになっていたのだった。
「いやもうマジ寒い」
上までファスナーを上げたジャージを顔を覆うように更に引っ張り上げた。
しかし限界まで伸ばされた生地は役目を果たさないまま元の位置に戻っていく。
首を竦めて吹きつける風をやり過ごしていると、視界の隅に赤と緑がちらついた。
クリスマスカラーなそれに一瞬誰かの紙袋だろうか、と思ったが、よく見ればそれは道端に根を張った小さな植物だった。
ふと塀と道路の狭い隙間に生える植物に既視感を覚える。
――この花、昔どっかで――
「…ああ」
思い出した。
あの時も今みたいな、寒い深秋の頃だった。


「あ!」
びゅうと風の吹く通学路、横を歩く少女が不意に声を上げて立ち止まった。
見れば何か道の端を見つめている。
「どうした?」
「あれ」
「…花?」
指差したのは小さな植物。
濃緑色をした大きめの葉が重なる上に葉よりも一回り小さい真っ赤な花びらが開いている。
鮮やかに伸びるその植物は鈍いアスファルトの中にひどく不釣り合いに見えた。
「あの花がどうしたんだ?」
「えっとね…。あ、ちょっと待ってシンタロー。あの植物、どこが花だと思う?」
「葉っぱの上の赤いとこじゃないのか?」
「残念。本当の花は、真ん中の黄色いところ」
言われて見れば中央に小さな淡い黄色の部分がある。
他の大きな場所に目が行って気がつかなかったが確かに花だ。
納得したのも束の間、新たに疑問が湧き出た。
「じゃああの赤いところは何なんだ?」
「あれは葉っぱだよ」
「え?葉は深緑のところじゃないのか?」
「そこもだよ。あの花には緑色の葉と赤い葉があるの」
なるほど。
確かに葉が一色とは限らない。
「色がはっきり分かれてるから上は花びらかと思った」
「やっぱりそう思うよね。私もそうだったよ」

「前から知ってたんだな」
「もちろん」
彼女が得意気に笑って花と視線を合わせた。
今まで見たことがなかったのだから店に売っている観葉植物の類じゃないだろうか。
人のことを言えた義理じゃないが、こいつがそんな植物を知っていることに驚いた。
いや、女子だし全然おかしくはないんだけど。
「この花、私の誕生花なんだ」
「え?」
「だからずっと前から知ってるの」
納得した。
数学だけじゃなく生物にももちろん弱いこいつが、こんなに花のことを覚えているのは少し不思議だった。
こういうこと言ったら怒るんだろうけどな。
けっこう可愛らしい理由だった。
「…そういえばもうすぐじゃないか?お前の誕生日」
「え、何で知ってるのシンタロー」
「どっかで言ってた」
「そっか。…嬉しいよ、覚えててくれてたなんて」
今度は蕾が綻ぶような笑顔だった。
マフラーの外の黒髪が小さく揺れる。
いつもとは少し違うその笑顔に、何かやるかと財布の中身を思い浮かべたことは言わないでおこう。
「誕生日、この花に負けないぐらい"祝福"してね」
「?…まあ期待しないで待ってろよ」
言葉の意味をよく理解しないまま返事を返す。
我ながらそっけないとは思うが、これでも言うのにかなり勇気を使ったことを理解してもらいたい。
鞄を持ち直す。
「そろそろ帰ろうぜ」
「そうだね」
こんなところで枯れちゃわないといいけど。
そう言いながら花を軽く撫でて立ち上がった彼女に今更問いかける。
「そういやこの花、何て名前なんだ?アヤノ」
「…この花はね――」


『ご主人ー?』
ポケットから聞こえたエネの声に意識が現実に引き戻された。
いつの間にかに立ち止まっていたようで、皆の後ろ姿がけっこう遠い。
『声が聞こえませんが、他の皆さんは?ていうかご主人どうしたんですか』
「ちょっと花見てた」
『花!?あ、百合ですか?』
「お前ちょっと黙れ」
ケータイの電源を切り、またポケットに落とした。

「…ポインセチアか」
彼女の台詞の真意は、後から知った。
赤と深緑の葉を華やかに纏った小さな黄色い花。
祝福の言葉を持つ十一月二十二日の誕生花。
今日の日付は――十一月二十二日。
雲一つない澄みきった冬の空を見上げる。
「誕生日おめでとう、アヤノ」

隣で伝えることはもうできないけれど、この気持ちが伝わるのなら。
そこまでしっかり届くかどうかは解らないけれど、もし届いたなら。
抱えきれないくらいの祝福を君に贈ろう。

一すじ、柔らかな風が吹いた気がした。



END



―あとがき―

アヤノちゃん誕生日おめでとう!
ということで超捏造してますがお祝い小説です
本当におめでとう…!

花について少し補足を
誕生花、花言葉には色々なものがあります
ポインセチア以外にも11月22日の誕生花はたくさんありますし、ポインセチアの花言葉も同様です
今回は私が特に好きだ、と思った言葉を使わせていただきました
ポインセチアは主に観賞用です、たぶん…←
その辺に咲くものなの、というご指摘、疑問はどうか胸の中にお願いしますすいません
ちゃんと調べられていなくて申し訳ないです(>_<)

それではここまで読んで下さってありがとうございました!                            

 

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