カゲプロ


□互いの為の
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『ご主人、好きですよ』
「オレもだよ」
いつものように始まる会話。
もはやこれは会話というより日課だ。
ひたすら続く不毛なルーチンワーク。
それでもオレらは止められない。

「エネ」
『何でしょう?』
「お前はずっとここにいるよな?」
『当たり前ですよ』
馬鹿らしい表面上は甘ったるい問いに、答えは笑いを含みながらもよどみなく返ってくる。
この言葉達も一体何度繰り返しただろう。
何度も何度も、壊れたラジオのように。
そのくせ雑音やらはないのだからタチが悪い。
だけどエネ。
それはお前の本当の気持ちじゃない。
お前はあの人を忘れてはいないんだろう?
否、忘れる気がない。
ほんのたまに聞こえる小さな呼び声。
オレはいつもそれを聞いているだけだ。

これだけ言えば報われていないなんて言われるのかもしれない。
騙されてるって。
でも、これがいいんだよ。
何故って?

オレもこいつと――同じだから。


『シンタロー』
今でも切なくなるほど憶えてる。
いつも赤いマフラーをしていた君の、儚い声。
きっと一生憶えてる。
「…アヤノ…」
もう伝えることは叶わないけれど、オレはずっとお前が好きなんだ。
愛してる。

今のオレはアヤノのいない寂しさを埋めるために貴音を利用してる。
それはきっとオレが死んでアヤノにまた会うときまで。
アヤノ、こんな馬鹿なオレを待っててくれるか?


恐くてすぐに死ねないオレは、今日も薄暗い部屋で死んだように生きる。



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