カゲプロ


□霧雨〔前編〕
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※シンタロー氏神様パロ…たぶん←


森に雨が降る。

雨の雫は木々の葉に当たって跳ね返る。
そして下に落ちてきた雨粒がオレの頬を叩いていく。
冷たく厳しく。
人里離れたこの森には昔からずっとそんな雨が降る。


******

この頃続いていた長雨が止んだ。
昨日までの曇天が嘘のように晴れ渡っている。
久しぶりに小川の様子でも見に行こうか。
そう思って社を出ようとした時、鬱蒼と茂っている下草がガサリと音を立てた。
「!」
オレが一応身を隠した瞬間茂みから何かが出てくる。
確かめようと覗き込んだオレは小さく目を見開いた。
「いたた…どこだろここ…」
「……………」
人間か…。
何かの気配は感じていたがまさか人間だとは。
せいぜい狐か何かだろうと気にしていなかったのだが。
というかこんな山奥に人間が来るなんて誰も思わない。
仕方がない。
大丈夫だとは思うが今日外に出るのは止めよう。
オレは気配を完全に消し、社の奥へと戻ろうとした。
背を向けた時から人間のことなど忘れていた。
だからかもしれない。
いつの間にか後ろにいた人間にあっさりと手を掴まれたのは。
「!?っ離せ!」
らしくもなく焦りながら掛けられた手を振り払う。
何故だ。
何故オレが視える。
何故オレに触れられる。
お前はただの人間だろう。
混乱するオレをよそに人間は戸惑ったような顔をした。
「え、そんなに強く振り払わなくても…。急に手掴んだのは謝るけど」
「…お前、オレが視えるのか…?」
「?そりゃそうでしょ」
「……………」
有り得ない。
オレがこの辺りを守る氏神になってもう何百年も経つが、オレが視える人間なんて一人もいなかった。
聞いたことくらいならあるが。
何十年に一度はオレ達のような存在が視える人間が現れることがあると。
それがまさか自分の下に現れるなんて思っていなかった。
神のくせに運命を呪う。
何もオレのところに来なくてもいいのに。
目を薄く見開いたままのオレは掛けられた声に漸く気を取り直した。
「どうしたの?」
「…何でもない」
「ふぅん。ねぇ、君この辺に住んでるの?」
「そうだが」
「お願いなんだけど…。良かったら下の村に行く道教えてくれない?迷っちゃって」
「…あの注連縄が巻いてある岩の裏の道を下れ」

こいつの緊張感のない雰囲気のせいでつい普通に会話していたが、何故オレがこんなに親切にしてやらなければいけないのか。
急に馬鹿らしくなったオレは
「転ぶなよ」
とだけ人間に告げ、一気に森の奥へと跳躍したのだった。                            

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