カゲプロ


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怪盗キッド――修哉が昼休みを思って溜め息を深くしていた頃。
灯影高校から少し離れた私立陽炎学園高等部では話題に上っていた東の高校生探偵――伸太郎が、珍しく学校に来て上機嫌に授業を受けていた。
とは言っても彼の場合、内容は全て解るので授業そのものはほとんど聞いていないのだが。

Side:シンタロー

――この間は本当にいい日だったな。
キッドのあんなに慌てた顔が見られるなんて。
覚悟を決めた甲斐があった。
次の犯行日もそう遠くはないはずだ。
次会う時に怪盗はどんな顔をするのか。
今までの対決のスリルにまた違う楽しみが加わる。
オレは抱く期待が探偵として些かずれていることに一度も気づかないまま、機嫌良く授業を受けていた。

教師が出て行くと一気に騒がしくなる教室。
それはオレの場合も例外ではない。
「久しぶりー。珍しく学校来たと思ったらやけにご機嫌だね。新しいPCでも届いた?」
「何でもかんでもPCに繋げんな、貴音」
「普段自分で言ってるじゃん」
休み時間になった途端オレの方を振り向いた、黒髪ツインテールに校則ガン無視のヘッドフォンをつけた目つきの悪い少女。
オレとは万年前後席という強い腐れ縁の持ち主である幼なじみ、榎本貴音は面白い物を見るような目でオレを見ている。
「…あ、もしかしてどっかで美少年と出会ったとか!?」
「何でそうなる」
「ちぇー、つまんないなぁ」
「お前って奴は…」
一つ忘れてはならないのはこいつが腐女子だということ。
しかもそれをオレに対して隠そうとしないから面倒だ。
「で、ほんとに何か良いことあった?伸太郎のそんな楽しそうな顔、すごい久しぶり」
「ちょっとな」
「何々?」
どう言えばいいのだろう。
まさかキッドに会うのが楽しみだなんて言えない。
そんなこと言ったら絶対BLネタにされる。
「…今度人に会うのが楽しみなんだ」
「へぇ。事件オタクのヒキニートがねー」
「うるさい」
「誰?」
「それは言えねぇよ」
「えー。気になるー」
「…月光みたいな奴?」
「…キモい…」
「…悪かったな」
そこでチャイムが鳴った。
もう終わりかーなんて言いながら貴音は前を向き、オレは形だけの用意をする。
午前の授業はあと二時間。
どうせ午後は要請で抜けるのだし早めに出て新刊でも買いに行こう、となんとなく予定を立てたオレは入ってきた教師の方を向いた。



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