カゲプロ


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「…はぁ〜」

都立灯影高校2年A組。
その教室でいつもは賑やかなクラスのムードメーカー、鹿野修哉は大きく溜め息を吐いていた。

Side:カノ

「はぁ〜」
「はぁ〜」
「は「うるさい黙れ」
「ちょ、ひどいよつぼみ。幼なじみが悩ましげに溜め息吐いてるのに黙れって」
「悩んでる奴はこれ見よがしに溜め息連発したりしない」
「つぼみの言う通りっすね。いい加減うるさいっす」
「幸助までひどい」
僕の友人達は冷たい、と大袈裟に肩を竦めると、今度は完璧に無視された。
ちょっと、今の冗談抜きで涙目になったよ僕。
僕が冷ややかな友人達を横目に嘆きつつ、机に慰めてもらおうとした時上から声がかかった。
「どうした?鹿野」
「あ、おはよ薊さん。聞いてよー、僕が悩んでるっていうのにつぼみと幸助ってばすっごい冷たいんだよ」
「それはいつものことだろう。私が訊いているのは溜め息の理由だ」
そうか、そうですよね。
まあ一番心配に近いからいいか…。
滲んだ視界?
そんなの知らないよ。
「…ちょっと、厄介なことが起きちゃってさー」
「厄介事?あぁ、月絡みか」
「うん」
薊さんは何故か僕の夜の顔――つまり怪盗キッドのことを知っている。
最初は否定していたが、薊さんが全く意見を変えず、また誰にも言わないので結局なし崩しに認めてしまった。
ていうかたまに助けてくれるし。
そして薊さんは僕の仕事のことを何故か月と呼んでいる。
たぶん月下の奇術師辺りからだろうけど。
「だが、特別悪いことが起きた訳ではないのだろう?」
「…だから厄介なんだよ」
「ほう」
何だかつぼみと幸助を置いてけぼりにしているが、まあしょうがない。
二人は仲のいい友人だがある意味一番知られたらマズい。
何たって幸助は探偵で父親は警視総監、つぼみの父親に至っては現場で毎回顔を合わせるキッド専任の警部なのだから。
「まあ正直に言ってみろ」
「…如月伸太郎って高校生探偵、知ってる?」
「ああ、もちろん」
「そいつ絡みなんだよね」
「それはそれは」

薊さんの声が面白い玩具を見つけたような声に変わった。
完璧に面白がっている。
この人のことだからもう分かっているのかもしれないけど、これは僕に吐かせるな…。
覚悟を決めて核心に入ろうとした時。
空気を読まないチャイムが鳴って担任が入ってきた。
「おや。じゃあ続きは昼休みにでも聞こうか」
「うげ。普通の休み時間じゃ駄目なの?」
「どうせ流し続けて昼休みまで持ち込むだろう?」
ならじっくり聞く方が楽しい。
生徒の憧れと畏敬を集めるこの人はやはり見逃してはくれないようだ。
ていうか今楽しいって認めたよね。
どうにも薊さんには適わない。
僕は昼休みを憂いてまた溜め息を吐くのだった。                            

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