企画


□幸化メランコリー
2ページ/2ページ



森林遊園地というだけあって日が沈むのは早い。
閉園時間の午後六時まであと30分という頃、夕焼けの中オレとヒビヤは遊園地最後の定番アトラクションに列に並んでいた。
言わずもがな観覧車。
この高い場所にある観覧車なら綺麗な夕焼けが見られるだろうと考えたのはオレ達だけではなかったようだ。
カップル、家族連れ。
色んな人達が幸せそうに並んでいた。
「ん、もうすぐだな」
「はい。そういえばシンタローさん、観覧車は平気なんですか?」
「お前ほんと失礼だな。オレを何だと思ってんだ」
「ニジオタコミュショーヒキニート」
「年上なめると痛い目に遭うって分からせてやろうか」
「遠慮しときます。…夏だけならシンタローさんの何倍も過ごしてますし」
「…そうだな」
淡々と言うヒビヤの瞳が赤く染まっていたのは夕陽のせいだろうか。
オレもヒビヤもそこからは何も言わず、ただ静かに立っていた。

「次の方、どうぞー」
「行こうぜ、ヒビヤ」
「はい」
やっと順番が来て、ゆらゆら揺れるゴンドラに乗り込んだ。
少し左右に揺れながら昇っていく小さな箱は夕焼けに照らされて赤く染まっている。
能力を使うときみたいだな、なんて今言っても笑い話になるのだろうか。
結局お互いに黙りこくったままゴンドラは頂上へと近づいていく。
このまま沈黙したまま下まで降りるのかと思っていたら、ヒビヤが不意に口を開いた。
「シンタローさん。携帯持ってますよね?写真撮りましょうよ」
「…そうだな」
せっかくのヒビヤとの二人の外出を邪魔されたくない、と苦労したがエネは追い払ってある。
来ていないかどうかはたまにチェックしていたから今もいないだろう。
スマホのカメラを起動させ、向かいのヒビヤに向けて構える。
まずは不意打ちで一枚。
パシャリと軽い音が響いて画面にいつも通りの顔をしたヒビヤが構成された。
「笑えよ、ヒビヤ」
「こんな感じ、ですか?」
「そうそう」
パシャッ。
今度は少しぎこちなく微笑んだヒビヤが画面に映った。
素人が携帯で撮った写真だから上手いとは言えないが、背景の森と柔らかく差し込む赤い光がヒビヤの雰囲気を儚げに魅せている。
ただ単純に、愛しいと思った。
「貸してください。今度は僕が撮ります」
「ん」
カメラを向けられると何だか緊張した。
レンズ越しに動作が硬くなったオレを見たヒビヤが小さく笑う。

数は揃えようと思ったのか、二枚撮ったところで携帯を返された。
自分の写真はあんまり見ないようにしてヒビヤの写真だけをSDに保存する。
待ち受けにしたりはさすがにしないが、プリントアウトならしてもいいかもしれないなんて考えていたところでまたヒビヤに話しかけられた。
「ねぇ…そっち移ってもいい?シンタローさん」
「あ、おう。…どうせならここ座れよ」
ヒビヤが立ったのを確認してから手を強く引いた。
体格差の利点だとばかりにヒビヤをオレの脚の間に座らせて上から抱き締める。
やんわり腕を掴まれた、と思ったら解かれた手は気づけばヒビヤの指と絡んでいた。
ゆっくりゆっくり、ゴンドラは進んでいく。
いつの間にかに頂上を越えたらしい入れ物は緩やかに下降を始めていた。
「シンタローさん、携帯貸して」
「?ああ」
オレのジャージのポケットから携帯を取ったヒビヤはほったらかしていたカメラを自撮りモードに切り替える。
そしてそれを前に突き出し掲げると笑って言った。
「笑って、シンタローさん」
咄嗟に笑顔を浮かべたオレの耳にシャッター音が聞こえた。
画面には急拵えの少し頼りない笑顔のオレと、抱き抱えられた珍しく満面の笑みのヒビヤ。
…これなら待ち受けでもいいかもしれない。
オレが画像を保存するのと同時にゴンドラは地上へと到着した。


観覧車の中で繋いでいた手は離さないまま並んで歩く。
帰りのバスは二人とも眠ってしまって危うく乗り過ごすところだった。
すっかり灯りの落ちた路地に107が見えてくる。
「楽しかったな」
「はい」
「次は皆も一緒に行くか?」
「二人でです」
「やっぱりそうだよな。皆には悪いけど」
「あの時間は譲れませんよ」
笑い合っていたらドアは目の前。
――とりあえず自慢話でもしてやろうかな。
ドアを開けると一気に賑やかな空間に包まれた。

「「ただいま」」


(そういや何でいきなり遊園地だったんだ?)
(前に行ったって聞いたから。あと定番デートがしてみたくて)
(…まあ悪くはなかった)
(次はデジカメ持って行きましょう)
(…ああ)




END



―あとがき―

初ヒビシンでした
私的には書いていてものすごく楽しかったのですが、如何でしたでしょうか

…けれどすいません
前にリアタイでシリアスで!とかほざいたんですがそれがどっかに飛んで行きました(^p^)
何でしょうこれ
シリアスなのかほのぼのなのか甘なのか
自分自身全く分かりません
ちなみに二人は付き合ってます
更に言うとこれはヒビシンです、シンヒビではありませんきっと←

こんなもので宜しければフリーですので、煮るなり焼くなりしてやって下さい
アンケートでヒビシンに投票して下さった皆様、ありがとうございました!

それでは^^                            
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ