その他


□境界線
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「華夜の髪ってほんと綺麗だよねー」
「そうかな?」
「うん、シャンプーのCM出れる」
「何それ」
暖かい日差しの中、髪を梳いたり指に絡めたり遊び、遊ばれながらながら二人できゃらきゃら笑う。
いつもの昼休み。
裕に背中まで届く華夜の髪はさらさらなのにきちんと纏まっている。
鴉の濡れ羽色、のお手本のような黒髪は光に少し明るく煌めいて。
細い束を手に取り丸く結べばすぐに解ける姿を見て、そういえば本当にこんなCMあったな、なんて思った。
「あたしの髪、跳ねやすいから羨ましい」
「私も大人しい訳じゃないよ」
「嘘だー」
艶やかな髪を眺めていると不意に一房掬って口付けたくなる衝動に駆られた。
ああ、またか。
口が裂けても言えない衝動を抱きついて押し込める。
ふわりと香ったお日様の匂いに胸がぎゅうと締め付けられた。
「ねぇ、華夜は髪くくったりしないの?」
「長いとゴム通すの大変なの」
抱きついたまま問えば華夜は苦笑を返した。
何気なく放った問いだったけれど、考えてみれば華夜が髪を纏めているところを見たことは二年間ほとんどない気がする。
でも言い方からすると結ぶのが嫌という訳ではなさそうだ。
髪を結んだ華夜も見てみたかったのだけれど。
あたしはずっとショートだから髪を弄ることはまずない。
友人の髪を弄ったことなら少しあるとかそれくらい。
と、そこまで頭を巡らせてはっとした。
「じゃあさ、あたしがくくる!」
「え?」
「あたしがやったら華夜は大変じゃないでしょ?」
「でも似合うかなぁ」
「大丈夫だよ、華夜可愛いし」
「咲はいつもそう言うでしょ。大体私可愛くないし」
信用できない、と頬を膨らませる華夜をどうにか宥めてゴムを受け取る。
というかそういう仕草が可愛らしいのだと何故気づかないのだろうか。
まあそんな天然さも可愛い、とそこまで考えて末期だなぁと苦笑を浮かべた。
「とりあえずツインテールね。あ、櫛貸して」
「はい」
丁寧に髪を分け、高い位置でゴムを通していく。
華夜くらい長さのある髪を結ったことは今までなかったけれど、なるほどこれは大変だ。
全部通すまでが長い。
馴れない所為か、時間が掛かった割にあまり綺麗に出来なかった。
ただ、予想通り。
ツインテールにした華夜は本当に愛らしかった。
「可愛い」
「そう?ありがと」
「すごい似合ってる」
言葉がするする零れてくる。

ツインテールにしたことで流している時の大人っぽさが純朴な可愛らしさに変わっていた。
もう、可愛いすぎる。
天使って華夜の為にある言葉なんだろうななんて本気で思う。
そんな私はきっと救いようのない華夜依存性。
ほらまた。
あの衝動が身体中を駆け巡って震える。
華夜は私のものだと世界に向かって叫びたい。
潰してしまう程強く抱き締めたい。
ずっとキスをして二人の時に溺れていたい。
おかしくなってしまったのはいつからだったか。
こんな感情、華夜に、友達に抱くモノじゃないのに。
「どうかした?」
「…ううん、何でも」
閉じ込めるようにきつく抱きつく。
「本当に、すっごく可愛いよ。華夜」
「? ありがとう」
もしこの気持ちを告げれば優しいこの娘はどう応えてくれるんだろう。
何度も考え続けて、止めたこと。
答えが解ったとしても、きっと口には出せないこと。
私は見えない境界を探す気力どころか、その為の一歩を踏み出す勇気さえも持ち合わせてはいない。
だからずっと華夜を振り回す明るい友人を演じて傍にいよう。
あたしは華夜の為だけの笑顔を貼りつけ、顔を上げた。



END



―あとがき―

久しぶりの小説更新でした
何故それが創作百合なのかというのはただ単に書きかけで放置していた中でこれが一番終わりが浮かんだからです
決して二次創作のネタが出ないとかではなく。

報われない一方通行な百合が好きです
薔薇でもいいですが一方通行な百合が好きなんです
我ながら何が言いたいのかよく解りませんすいません

シリアスがうまくなりたいです
ていうかきちんと筋の通った話が書きたい
その為にはやっぱり数書くしかないのかなと思う最近です

それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました!                            

 

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