ねえ、日吉くん!
□考えることがある
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最近、考えることがある。あいつはどこで俺のことを知ったのだろうか。
同じ学校、同じ学年だからいくらでも知る可能性はある。俺が覚えていないだけで偶然廊下ですれ違ったりしたのかもしれない。それにあいつは鳳と同じクラスだ。何故か鳳はあいつのことを応援しているし、いくらでも俺のことを聞くことができる。
「どうかした、日吉?」
ちらと鳳を見た俺にそう尋ねてきた鳳。お前があいつに俺のことを話したのか。喉元まで出かかったが何だか鳳に、しかもあいつのことで聞くのは癪だったので口にすることはせず呑み込んだ。
「いや、何もない」
「そう?あ、忍足さんと向日さんの試合終わったみたいだよ。次俺と日吉だよね」
「ああ」
返事をしてきゅっと靴紐を結び、立て掛けてあったラケットを手に取った。今日の練習はレギュラー同士の試合だ。今終わったばかりの忍足さん対向日さんの試合はどうやら忍足さんの勝ちらしい。
「忍足くんお疲れさま!!」
「あーん、向日くん惜しかったー!!」
「あっ、次は鳳くんと日吉くんだよ!!」
ギャラリーががやがやと騒ぎ立てているのを一瞥してコートに入る。鳳を応援する声と同じくらい、頑張って日吉くんなどと俺を応援する声が聞こえるが正直迷惑だ。俺達テニス部のことをアイドルか何かと勘違いしているこいつらの応援は煩い以外の何物でもないのだ。
そういえば、あいつはテニスをしているときの俺を見たことがあるのだろうか。あいつの性格上、もしも見に来ていたらこの煩い応援に負けないくらいの大きな声で俺の名前を呼ぶだろうから、見に来ていたらすぐにわかるはずだ。俺が気付いていないだけなのか、しかし毎日嫌でも聞いている声なのだ。気付かないことはないだろう。
「絶対負けないからね日吉!!」
鳳のその声で意識をこちらに戻した。そうだ、今は田中のことを考えている場合ではない。練習試合といえども負けるわけにはいかないのだ。ただ勝ち続けて、あの人より強くなって俺はこの氷帝テニス部のトップに立ってやる。
「下剋上だ」
そして俺は、すぐに来るであろう鳳のサーブに集中した。
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