ねえ、日吉くん!
□それ以上に厄介なもの
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朝起きて携帯を開く。そして目に入った今日の日付。何となく見覚え、いや聞き覚えのある日付にはて今日は何の日だったかと思考を巡らせた。
「…あ]
そしてひとつだけ出た結果に俺はさらに頭を悩ませることになる。
「誕生日…」
いや、田中の誕生日だから何だと言うんだ。そもそも何で俺があいつの誕生日を知ってるんだ。そうかあいつが何回も今日が誕生日だと言っていたんだ、だから覚えてしまったんだ。だが覚えているからといってプレゼントは買わないぞ。だって、何で俺が買わなくちゃいけない?恋人でも友達でもない、ましてや頼まれたわけでもない。あいつとは知り合いレベルだ。
「第一、こんな時間からやってる店なんてあるわけないしな」
呟くとハッと鼻で笑って俺は家を出た。
「おはよう、日吉くん!!」
学校に着いてすぐ、今日も田中はいつも通りに無駄に元気に教室にやって来た。
「…ああ」
「あのね、昨日あの本読み終わったんだけど…」
そしていつも通りぺらぺらと喋る。本当に飽きないなこいつは。いつも通り俺も受け流す。今は別なことで頭がいっぱいなんだ。
「あ、そろそろ行かなくちゃ」
「待て」
時計を見て戻ろうとする田中を呼び止める。
「やる」
一言だけ付けてぽいと鞄から出した小さな包みを田中に渡した。
「え??」
何のことかわからないと頭上に疑問符を浮かべる田中に、そしてこんなことをしている自分に対して溜め息を吐いた。
「お前、今日誕生日だろ」
「誕生日…そうだ私今日誕生日だ!!日吉くん覚えてくれてたの!?」
「何回も聞いていたら嫌でも覚える」
「開けてもいい?」
「お前にやったんだ、勝手にしろ」
「うん!!」
プレゼントの中身は猫のストラップだ。早朝だというのに何故か開いていた店で気付いたら買ってしまっていた。普段の俺なら絶対にこんなことはしない。田中がやたら話してくるから、きっとこいつから馬鹿が移ってしまったのだろう。
「わあ、可愛い!ありがとう日吉くん!!」
そう言って嬉しそうに笑う田中を見て思う。厄介な奴に好かれてしまったと。
「でもね、日吉くん。私今日が誕生日だってこと一回しか言ってないんだよ」
「は…」
しかしそれ以上に厄介なものが一つ。
「何だかんだ私の話聞いてくれてたんだね!!」
厄介なのは他でもない、こうして嬉しそうにするこいつを見て同じように嬉しくなってしまった自分自身の感情である。
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