ねえ、日吉くん!
□これから知ってほしい
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嫌な予感ほど当たりやすい。あれ以来、ことあるごとに田中は俺に話しかけてくるようになった。
「おはよう、日吉くん!!」
「…ああ」
教室が違うのが唯一の救いだと思っていたがそんなことはなく、気にせずにずかずかと教室に入って挨拶をする。そしてチャイムぎりぎりまで一方的にべらべらと話して去っていくのだ。
「それでね日吉くん、」
ぶっちゃけて言えば、ちゃんと話を聞いてない。それこそ本当にくだらない内容ばかりだからだ。今日は学校に来る途中に猫がいたとか昨日見たテレビがおもしろかったとか。そんなどうでもいいことをよく次から次へと話せるものだ。しかも笑顔で心の底からそれはもう楽しそうに。それだけは逆に尊敬する。
「それで鳳くんが…あ、もうそろそろ教室戻らなくちゃ」
ふいに時計を見て言った田中を、多分初めておいと呼び止めてみた。
「えっ!?」
「…何でそんなに驚くんだ」
「だって日吉くんが呼び止めたのって初めてだから…それで何?」
…よく覚えてるもんだな。
「なんでそんな懲りずに話しかけてくるんだ、俺がまったく聞いてないことは分かってるんだろ」
すると田中はにっこりと笑った。
「うん、分かってるよ。でも嫌がってはいないから。日吉くんて物事をはっきり言うタイプでしょ?嫌だったら今ごろ私に来るなとか言ってるはずだもん!!」
それを聞いた俺の顔はさぞ間抜け面で笑えたことだろう。確かにそれが別に嫌だと思ったことは何故か一度もないのだ。
「それに私言ったでしょ、諦めないって。もし日吉くんが無理だって言ったのは私のことを日吉くんが全然知らないからなら、これから知ってもらえばいいよね!!」
だからこれからもガンガン話しかけるから覚悟しといてね!!最後にそう言い残し教室を去っていく田中。なんてポジティブなんだろうか。
「…馬鹿か」
そう呟いた俺の顔がどこか楽しそうであったことを俺は知らない。
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