ねえ、日吉くん!

□お話があります
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あれは、授業が終わり部活に向かおうと廊下を歩いているときだった。



「あ、あの!!」



背後から声をかけられて立ち止まる。呼び止められたことに少し苛立ちを感じながら振り向くと小柄な女子生徒がそこにいた。大きな瞳をきらきらと輝かせて俺を一心に見つめている。



「何だ」



俺は急いでいるんだ、用事があるなら早くしてくれ。そういう意味をすべてその一言に込めたら、自分でも思ったより低い声が出た。女子生徒が怯む。



「ああ、もう!!怖がらせちゃ駄目だってば!!」



小さく聞こえた声の方に視線を向けると教室から覗き込む鳳がいた。本当に何なんだ一体。



「あの、日吉くん!!」



そして再び女子生徒に視線を戻す。



「お話があるんです!!」


「手短に頼む」


「大丈夫、すぐ済むから!!」



にっこりと満面の笑顔で言う女子生徒に早く言えと催促をする。そして次には女子生徒は真っ直ぐに俺を見て、はっきりとした口調で一言。



「一目惚れでした、付き合ってください!!!」


「無理だ」


「即答!?」


「ちょっと日吉!!」



さっきまで教室から覗いていた鳳が名前を呼んで詰め寄ってきた。



「即答は酷いんじゃない、もう少し考えてあげて…」


「知るか」



俺には跡部部長に下剋上を果たすという野望がある。恋愛とかくだらないものにうつつを抜かしてる暇なんてない。



「でも、せめてもうちょっと言い方ってものが…」


「大丈夫だよ鳳くん」


「田中さん…」



そこで初めてその女の名前が田中だと知る。まあ、どうでもいいことなのだが。なんて呑気なことを考えていた次の瞬間、こいつはとんでもない一言を口にした。



「私、これで諦めてないからね!!」


「は…」


「それじゃ、引き留めちゃってごめんね。日吉くん、鳳くんも、部活頑張って!!」


「ありがとう田中さん」


「おいちょっと待…」


「じゃあまた明日!!」



嵐のようだった女子生徒の後ろ姿を見送って呆然と立ち尽くす。そんな俺に鳳は一生懸命ないい子でしょと微笑ましそうに笑った。一生懸命ないい子かは知らないが、諦めてない?この時点で正直、俺には嫌な予感しかしなかった。



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