短編

□諦観の自覚
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これは昔の話。

自分が未熟すぎた、今じゃ笑えるくらい恥ずかしい話。

クオのことを結羅と呼んでいた、そして結羅からクオと呼ぶことに決めた日の話。

そう、昔のあの日の話。




僕は何となしに散歩しようと思って外へと出かけた。

その途中で結羅を見つけた。

僕の大好きな結羅を。

隣にいるシンタロー君と幸せそうにしゃべっている結羅を。

「……結羅」

思わず出た小さな呟きが自分の耳に届く。

呆れてしまう。

結羅がシンタロー君と一緒に幸せそうに過ごしているのを見て黒い感情を持った自分に。


結羅とシンタロー君が一緒に居て何が悪いというのだろう。

何も悪くない。

寧ろお似合いなのだから良い方だろう。

非があるのは僕だ。

僕に振り向くことなどないとわかっていながら、結羅を好きでいる。

僕が勝手に結羅を好きになって勝手に嫉妬したのだ。


あーあ……

自分が邪魔者だって知ってるのにね。

自覚しないようにしてきたんだけど、もう無理みたい。

いい加減自覚せざるを得ない。

いい加減、自覚せざるを得ないよなぁ。

自分に自覚させて諦めることを知るために僕はどうしようか。


「あ、カノ!」

「ん、おーカノじゃん」

考えていると二人は僕に気づき手を振ってきた。


ねえ、そんな幸せそうな顔を僕に向けないでよ。

やっぱりほら、君らはお似合いなわけだからさ。

自覚のために、諦めるために息苦しくなっちゃうんだ。

そう、思っているのに、


『やっほー!シンタロー君にクオ』

爽やかな笑顔で二人の近くへと足を進める。

結羅をクオと呼んだ自分驚きながら。


今クオと呼んだ?


そうか。

僕はそうして自覚させることにしたのか。

まだ希望を捨てきれない僕の気持ちとは裏腹に笑顔を貼り付けて

『二人ともなんだか幸せそうな顔してるね!もしかしてデート中だったりした?』

まだ希望を捨てきれない僕の気持ちとしては聞きたくない返事を待って、

そうしてしかいられない自分を僕は笑っているんだ。


聞きたくない返事だったらいい加減に諦められるなんて無理な期待を込めて。

嘘つきな僕の恋なんて実らない。

嘲笑って希望を殺す。




明日は土砂降りにでもなってくれないかな。




あの日も今もそう思った。

恥ずかしながら希望を殺し切れていない今、あの日を思い出して決意を固めることしかできない。

笑うしかないよね、こんな自分。

人のいない公園で足を振ってブーツを飛ばす。

ブーツだから求める結果になる確率は皆無。

今度スニーカーあたりを買ってやることにしよう


『あーしたあーめになーあれ』







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