短編

□Come on
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ピンポーン

私は呼び鈴を鳴らした。


ピンポーン

再び呼び鈴を鳴らした。


ピンポーン

またしても呼び鈴を鳴らした。


ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン

連打で鳴らした。


ピンポンピンポンピンポンピンポンピンp……

「結羅お前なぁ!」

『すぐに出て来なかったのはどこのだれだろうね』

「ぐっ……」


目の前にいるのは如月伸太郎。

ヒッキーな私の同級生だった人だ。

先ほどしつこく呼び鈴を鳴らしたのは絶対に家の中にいると確信していたので行ったまでである。

だから、キレたところで非があるのは居留守を使おうとした伸太郎にあると思う。

『ところで、キミは今何してたの?』

「別に結羅に言わなくてもいいだろ」

『ま、そうだね。じゃぁお邪魔しまーす』

伸太郎の横を通り抜け如月家にお邪魔する。

「ちょ……お前何勝手に……!」

『お邪魔するって言ったでしょ』

こうでもしないと話してるまた途中に切り上げられそうだし強硬突破。

そう言うと伸太郎は私を見て呆れた顔をした。

そんな顔をされてもこんな行動に出るのは普段の君の行動の所為であって、私は対策を講じたということに文句を言われる筋合いはない。

いや、口には出さなかったが。


『さてと、家にはキミしかいないの?』

「あ?あぁ、まあな」

『そ、じゃあ都合がいいわ』

「はあ?都合がいいって……」

『ねぇ、如月伸太郎君。もう一度学校に来る気はない?』

「ねぇよ」

『義務教育じゃないし、強制はしないけど。もしかしてまだ引きずってるの?楯山さんのこと』

ピク

彼の肩が少し揺れた。

『楯山さんの自殺について何をどう思って今こうしているのか知らないけど、楯山さんは、少なくともキミを引きこもりにするために自殺したんじゃないと思うの。辛いかもしれないけど……』

「お前にアヤノの何がわかる」

吐き捨てるように彼はそう言った。

ふっと思いついたことが口をつく。

『……これが小説なら私は’わかるわよ’または’わからない。でも’ってセリフを言うべきなんでしょうね』

「何が言いたい?」

訝しんだ探るような瞳が私を見つめる。

『まず綾乃さんのことについては、そうね、何もわかっていないと思うわ。キミほど彼女の近くにいた人はいないでしょう。次に何が言いたいか。実を言えば今日来たのはかなり私事な内容なの。さもキミのため、みたいな感じで言ってしまったけれど、本当はただの私のエゴだね』

「なんだよ、俺に何かしろってか?」

そんなんごめんだね

彼の口からそんな言葉の羅列が流れ出た。

『キミに学校に来てほしい』

しばらく沈黙が続く。

「……それだけのためにお前はここに来たのか?」

もちろん、その言葉の続きはある。

あるにはあるのだが。

どこかで楯山さんが亡くなってしまったことを喜んでいて、どこかでそんな自分を許せなく思っている。

だから言葉の続きを正直に真正面から話してしまうことは躊躇われた。


『まあ、まずキミは不愉快でしょう?勝手に家に上がられて学校に来いとか戯言を並べられて。親しくもない奴がキミの家に堂々と入ったことは謝るわ。大丈夫。もうここには来ない。安心して。ではさようなら。』

「おい!ちょっと待てよ!」

まだ答えを聞いてない、わからないままでは気持ち悪い。

そんな気持ちが彼の顔には浮き出ている。

『君が学校に来たら仲良くなってあわよくばお付き合いしたいなと、そう思っただけだよ』

「……は?」

何言ってるんだ、コイツっていう顔だった。

『迷惑だよね。でもさっき言った通りもう来ないから、忘れて。じゃあ』

「待てよ」

彼は何か決めたようだった。

「少し……考えといてやる」

彼は頬を染めながら続けた。

「だからこれからも俺ん家に来て俺が学校に行きたくなるようにしてみろよ」

『……そんな言い方、私じゃなかったらあなた嫌われてたわよ』

「今まで許されてたんだよ」

彼は恥ずかしいのかそっぽを向いた。

ああ、楯山さんか。

彼女の面影にこれから勝てるのだろうか。

それとも彼女の代用品に成り下がるのだろうか。

いやどちらにせよ、希望は見えた。

それが亡くなった彼女に向けられるべきものであろうと構わない。

『わかった。じゃあまた明日』

「ああ、また明日な。結羅」

彼の口角が上がっていてどきりと胸が鳴った。


ガチャン


伸太郎の家を背にして離れる。

歩調は走り気味だ。

君の愛情が得られるなら、何でもいい。

私は君を愛し、キミに愛されたい。





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