short boys

□忠告
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「やめとけよ」

それはつい数時間前にも聞いた言葉だ。



坂田銀時は奥歯を強く噛み締めて、目の前に立ちはだかる男を睨めつけた。
一度、土方から止められた時に覚悟を決めている。
今更もう一度同じことを言われたところで何も変わりはしないのだ。

「これ以上は…、本当にやめるべきだぜ、銀時ィ」

低音で軽い調子という、アンバランスで癖のある喋り方をする、二人目の忠告者は高杉晋助だ。

銀時は、ずいと高杉に顔を近づけてまじまじと彼を観察した。


勢い良く近付き過ぎて至近距離になっているため、なんだか寄り目になっている銀時は不服顔のまま口を開いた。


「嫌なわけ。お前、嫌なんだ?」


今度は傍目からもわかる不服を表そうと下唇を噛み出した銀時に、高杉もあからさまに顔を顰めた。

床は畳張りであぐらをかいていた高杉は、上手く身を引くことができなかった。
ちょうど、腰骨の両側に手をついた銀時は、今にも泣きそうな顔をしながらもちゃっかし高杉の喉仏に熱い息を吹きかける。


「だめ?もっと…俺、欲しいのに…」


潤ませた目を下から覗き上げるようにして晒す銀時は、擦り寄る猫の如く愛らしく、それでいて小賢しい。

思わず揺らぎかける理性に、高杉はごクリと生唾を飲み込んで、そして脚の低いテーブルに目をやった。

そこには既に所狭しとお猪口やらジョッキやらが散乱しており、ビール瓶が12本も転がっていて思わず絶句する。
実際のところ、そこには数時間前まで近藤をはじめとする新選組の上位メンバーが数名いたらしいのだが、それにしてもアルコールが多いと思う。

銀時の懐に入っていた11個の番号のみが書かれたメモに気がついた沖田総悟という男が、上司にも内緒で━━声色からして面白半分なのだろう━━高杉に電話をかけてきた。

内容は、“酔いつぶれて動けないお姫様を迎えに来てやってくれ”というもので、電話の相手があの有名テロリスト高杉晋助だとしっかりと認識していた沖田は、過度に酔っているとはいえ上司たちを一応新選組としてテロリストなんぞと鉢合わせしないようにと謀って銀時のみを置いて居酒屋を去ってくれていた。

「銀時、もう帰んぞ。入れやしないが、家の前までくらい送っていく」
 

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