short boys
□染まりゆく
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かぶき町、夕暮れ時
橙から赤く染まりゆく狭い路地に、
笠を深く被った男が一人
喧騒からぽつりと逃れた彼は廃屋のような錆びれたビルの壁に背を預け、煙管をふかしている
身に纏う女物の紫の着物は、赤を越えて紺になった
ふと空を見上げれば黒いカラスが一羽、また一羽と増えていく
まるで夜の闇は自分達が連れてきているとでも主張しているかのように飛び回り、声をあげる
そんなカラスを覆い隠す時刻が近づいてきた
それでも男はまだ動かない
感情をも持たないかのよう
彼もまた、黒に染まる
月もなく、静かで厳かな闇が包む
必要のなくなった笠を降ろした
ザリ、という音が小さく鳴った
同時に口に加えたままだった煙管が離れて、別のものに唇を奪われた
すぐに解放された彼はさして驚いた様子も見せず平然と、突然表れた人物に声をかける
「こんな場所へ呼び出して何のようだァ?」
そんな彼に少しばかりの不満を感じたのか、逆に聞き返す
「そんなことより高杉……待ち合わせは、夕方のはずだっただろ?」
それに対してなにも言わないのか、とまぁそんな感じだろう
言葉が足らないのはいつものことだ
そんな相手に、高杉と呼ばれた煙管男は、はっと鼻で笑う
「別に大差ねェ。むしろこっちの方がお互いに好都合なんだろ?土方さんよォ」