二度目の人生シリーズ

□第五部 ヴァリエール公爵家の落日
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「航空爆撃の後、混乱する敵軍へと地上部隊による一気果敢な突撃……非常に単純な戦法ではあるが、それを実現するジークには恐れ入るな」

 タンネンベルク・ツェルプストー連合軍の総指揮を執るアレクサンドルがそう零すと、横にいるツェルプストー辺境伯も言葉もなく頷く他ない。

 タンネンベルク皇国の独立と建国によって齎されたゲルマニアの混乱は、言葉にする事すら難しいほどに凄まじい物である。他国からの侵攻を前にしても内乱に歯止めはかからず、それどころか激化する傾向にある。ゲルマニアの一諸侯であった辺境伯の立場から言えば、とんでもない事をしてくれたと言うのが正直な感想であった。だが、事此処に至っては、全く違った感想を思い浮かべていた。即ち、それが必然であったのだろうと言う一種の納得である。

 皇国は独立に際してゲルマニア本国から派遣された五万の兵員に対し、一万五千余りで圧倒的勝利を収めている。各国は上質な兵器と盛んな士気、簡易陣地の作成による有利な戦場の構築など、相応の策を弄したからこその勝利であると見ていた。だが、航空機と言う新たな兵科の齎した圧倒的なまでの攻撃力を前にして、辺境伯は皇国が独立に動いた事を当然と思うようになったのだ。仮に航空機技術を皇室に差し出したとしても、皇帝は一時的にタンネンベルク侯爵家を厚遇するかもしれないが、下手をすれば後に改易される可能性があった。出過ぎた杭は、何時の時代にも打ち込まれる定めだからだ。だからこそ、それほどまでに強大な軍事力を手に入れた結果としてタンネンベルク侯爵家が独立に動いた事は、必然に思えたのだ。

 頭上へと高速で飛来した航空機に対し、トリステイン王国軍は対処し得なかった。警戒のために上空を舞っていた竜騎士達は先陣の齎した機銃掃射と言う名の鉛の雨に撃たれて地上へと墜落し、続けて訪れた災厄が地上へと重たい爆弾の雨を降らせる。その雨は、衝撃信管によって起爆する仕様であったため、メイジ達の必死の防衛により一部は不発で済んだ。しかしながら大半は役割を全うし、見事な赤い花火を地上に現出させた。

 第二派、第三派の襲来、そして爆発。もはや、再編途上にあったトリステイン王国軍が、組織的抵抗力を維持していない事は誰の目から見ても明白であったと言える。そこへ、これまでの鬱憤を晴らすべく襲い掛かるツェルプストー辺境伯軍と、その後方、及び側面から迫るタンネンベルク皇国軍。生き残っていた兵達はたちまちの内に恐慌を超える錯乱状態に陥り、負傷兵を見捨てて一目散に国境方面へと逃亡を開始した。無論、タンネンベルク・ツェルプストー連合軍が追い討ちを止める道理はない。負傷兵や死体の処理を任された一部の部隊を除き、徹底的な追討戦が夕暮れまで続けられた。

 最終的な今次会戦の死傷者数は、先のタンネンベルク皇国独立の際のゲルマニア主力の壊滅と同様、これまでのハルケギニアの戦争の常識を覆すほどに圧倒的な数に上った。トリステイン王国軍は、一万二千名の兵員が死亡。また、重軽傷者や皇国軍の捕虜となった者まで含めると、軽く二万名を上回る損害を出したのだ。残る一万五千の兵員に関しても、大半が国境を越えた後に飛散してしまい、後方支援の任に就いていたヴァリエール公爵の下に無事に辿り着いた兵員は、五千名を大きく割り込んでいたのである。
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