二度目の人生シリーズ

□第二部 皇国の躍進とメイド
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 現在、ジークハルトの年齢は十五歳。原作のメインヒロインであるルイズが十歳になったばかりなので、原作の時間軸までには後六年ある。シエスタも、まだ十一歳になったばかりである。当初は彼女もジークハルトと言う“貴族”に怯えていたのだが、今では彼女自身が名目上は貴族であるし、ジークハルトと言う人間の性格を理解して以降は態度を改めている。それに、ジークハルトの容姿はあのグラモン伯爵と彼が見初めた美貌を持つヴァレンティーヌの息子だけあって、極めて整っている。貴族や平民と言う以前に、彼の容姿に見惚れない異性は少ないと言う事だ。しかも、彼は転生に際してカリスマ値と恋愛運の向上に大量のPを投入している。シエスタと言う異性が彼に惹かれてしまうのは、既に自然の摂理であると言えよう。

「それにしましても、ジークハルト様。最近、全くお休みになっておられませんが、本当にお体は大丈夫なのですか?」

「大事無い。それに、俺が政務を疎かにすれば、困るのは国民だ。それでなくとも国内整備の途上にある上に、外敵が多過ぎる。トリステインやゲルマニアの残敵ならばまだしも、アルビオンやガリアが動けば面倒な事この上ない事態になりかねない。早々に国内を安定させ、外征可能な態勢を確立せねばならない」

 ジークハルトとしても、何時までも現状が継続するとは考えていない。故に、一刻も早い国内情勢の沈静化と、国力の増強が急務となっているのだ。

「とは言え、俺も人間だ。適度に休憩は取るつもりだが、お前も無理をしていると感じたら声をかけてくれ」

「はい!」

 頼られた事が嬉しいのだろう。子供らしい幼さの中にも、ジークハルトへの思慕を隠さずにシエスタは答える。それを見ながら、ジークハルトも苦笑して彼女の淹れてくれたお茶を口にする。

 実際問題、現在のジークハルトは摂政皇太子として国内外での自国の政策の全てを統括している立場にある。睡眠時間は平均二時間程度で、とてもではないがまともな人間では継続し得ない悪環境にいる。それでも職務に邁進していられるのは、転生特典であるFFアイテムの恩恵だ。

 エリクサー。伝説の霊薬であり、一説には死者すら蘇らせるとも言われるアイテム。実際の効果は全HP・MPの回復であるが、これを服用する事によって体力と精神力を全快しているからこそジークハルトは激務に堪えられるのだ。このアイテムは配下の内政官達にも配布されており、非常に重宝されている。何か使用法が違う気もするが、とにかく激務をこなす彼らにとって最大の味方と言える。

 現状、タンネンベルク皇国の国力は旧ゲルマニアの約半分と言った所だろう。ジークハルトの発見した汎用工作機械で各種の工作機械と発電機を量産し、それを利用する事で国内の製造業は軒並み各国の十倍以上の効率を叩き出す事に成功している。しかも、国内開発の段階から人口流入には歯止めが利かず、既に三百万人を超える人口を擁するに至っている。しかし、人口が増え、製造業が高効率で稼働すればするほどに、限られた資源を浪費する事にも繋がる。元々、タンネンベルク皇国領は数百年以上も前の時点で開発が完了していた地域である。現在、北部の手付かずとなっている地域の開発にシフトし、鉱物資源を探索している最中である。

「資源採掘の状況は極めて好調。亜人や幻獣対策に製造した狩猟用ライフルの増産も行われているし、当面は……三ヶ月程度は時間を稼げるだろうし、その間に何とか態勢を確立したい所だな」

 幸いと言うべきか、資源の確保は一息吐いている。ハルケギニアを地球の欧州とした場合、現在のタンネンベルク皇国の国土は西ドイツと北欧の南部に位置する。現在は埋蔵資源の確保を目的に北欧地域の開発を行っているのだが、此方は完全に手付かずの鉄鉱石、石炭鉱床を何箇所か発見しており、風石機関を搭載した輸送船による輸送ルート策定も済んでいる。そのため、残る問題は占領下に置いた諸侯の領地を掌握する事に限られるのだが、何しろタンネンベルク侯爵家時代に治めていた十倍以上の領地を自国の版図に組み込んだ形の上、それらの領地の元々の領主の過半が制圧時に戦死するか、帰属を拒否しているため、一朝一夕には片付かないのだ。無論、それでも当初と比べれば解決の兆しを見せており、三ヶ月と言う時間は国外勢力が動くならばの目安である。

 結果として、ジークハルトの予想は寸分違わず、三ヵ月後に行動を起こす国が出現した。その国の名はトリステイン王国。諸侯に軍の編成を下命した彼の国の上層部は、タンネンベルク皇国の建国によって内乱状態に陥っているゲルマニアに対して宣戦布告し、ツェルプストー辺境伯領へと侵攻を開始したのである。

 そもそも、どうしてトリステイン王国が帝政ゲルマニアに対して軍事侵攻を行うのか。それは、両国間の領土問題に端を発した長年の確執と、近年のトリステイン王国の大幅な弱体化が原因である。

 トリステイン王国は、南のガリア王国、大陸上空を行き来するアルビオン王国と並び、始祖ブリミルの血統を現代に伝える兄弟国であった。だが、大国として君臨するガリアや、浮遊大陸の利点を活かし守るに易く攻めるに難いシーレーン国家として成立するアルビオンと比較して、とにかく弱小国である。特にハルケギニア最大の国家たるガリアと比較すれば、国土面積や人口の面で十分の一程度。歴史と伝統を誇りとする国家と言えば聞こえは良いが、実態は旧態依然とした歴史だけ一流の三流国であったのだ。

 無論、トリステイン王国とて初めから弱小国だったわけではない。最盛期には現在の三倍以上の国土面積を有していた事もあるし、当時も大国であったガリア王国と全面戦争を戦い抜き、勝利した事すらある。だが、この数百年の間に東部方面を主とする地域で独立やゲルマニアへの合流が相次ぎ、国土が縮小。それに伴って国力も減衰し、徐々に今のような小国へと落ちぶれて行ったのである。

 このまま座していれば、そう遠くない内に国家の体を為さなくなり、トリステインの歴史と伝統は時の流れの中に埋没してしまう。

 多くの心ある貴族達が、そんな未来を予見して何とか足掻こうとしていた。逆に、心無い貴族達もまた、その地位を守るためとは言え、国の体裁を保つ努力を続けた。その結果が現在のトリステイン王国であり、弱小国ながらも弱肉強食の時代に未だ国家主権を保っている現状だった。

 そんな折に降って湧いた機会を逃せるほどに、トリステイン王国には余裕がなかった。それは実質的に最後の賭けであると理解しながらも、退く事が出来ないほどに魅力的な案だったのだ。

 故に、トリステイン王国は歴史のうねりの中に飛び込む愚を犯したのだ。
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