二度目の人生シリーズ

□第八部 二人目の転生者と一つの結末
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 トリステイン王国を巡る戦乱が終結し、諸所の処理が済んで半年の時が流れた。

 ようやく国内の態勢を磐石としたタンネンベルク皇国は、属領たる三つの公国を含めればかつての帝政ゲルマニアに匹敵する国力を有するに至り、ハルケギニア各国の間でもガリア王国に次ぐ事実上の第二位の席次を得た事となる。

 この半年間の最も大きな外交的成果として、戦争終結から二ヶ月が過ぎた頃に、ガリア王国から特使が派遣されてきた事が挙げられる。

 ガリア王国はハルケギニア最大の国土と人口を擁する大国であるが、同時に貴族の数も最大であり、諸侯間で熾烈な権力闘争が繰り広げられているのが状態であった。そのため、タンネンベルク皇国が建国直後に遣わした不可侵条約締結を求める特使に対しても、派閥間の駆け引きが拡大して国内の意思統一が不可能となり、即答を得る事は叶わなかった。

 当時、建国直後の混乱期にあったタンネンベルク皇国としては、時間稼ぎを最大の目的に据えての特使派遣であったため、そうした意味ではガリア国内を混乱状態に陥らせ、時間を稼ぎ出す事に成功したと言える。だが、此処にきて彼の国は、特使の派遣を命じたジークハルト自身でさえ半ば忘れ去っていた案件を蒸し返し、今更ながらに不可侵条約締結に同意する旨を申し送ってきたのである。

 無論、正式に条約が締結されたならば、それはそれで皇国の国益に適う。タンネンベルク皇国は未だ発展途上の域を出ない新興国であり、強大な周辺国との関係悪化は可能な限り避けたかったのだ。

 ジークハルトがハルケギニア各国で軍事的意味合いから警戒すべきと考えているのは、このガリア王国と、浮遊大陸を国土とし強大な空軍力を保有するアルビオン王国のみ。特に陸軍力でも空軍力でもハルケギニア最大最強の軍事力を保有するガリア王国との間で不可侵条約が締結されれば、属国である三つの公国を挟んで国境に貼り付けている大兵力を縮小する事が可能となり、同時に経済交流によって国内の物流に良い影響を与える事が出来る。

 しかし、この知らせを受けたタンネンベルク皇国上層部は、単純に喜んでばかりもいられなかった。何故ならば、不可侵条約締結に関する条件として、留学を名目として王族二名を含む使節団を皇国国内に長期に亘り逗留させるように提案してきたからだ。

 留学を予定している王族は、共に現王の孫娘で、ジョゼフ皇太子とその弟であるオルレアン公シャルルの娘達だと言うのだ。二人の名前を聞いたジークハルトは、突然の原作キャラクターの登場に頭を抱えた。

「御主人様、どうかされましたか?」

「……読んで見ろ」

 そんなジークハルトの様子を不思議そうに見るのは、首に皮製のチョーカーをした幼い少女だった。

 彼女は名をケティと言う。

 原作に登場するサブキャラクターの一人であり、本来の名前はケティ・ド・ラ・ロッタ。旧トリステイン王国に属する貴族の家に生まれたはずの彼女は、既に爵位も家名もなく、ただのケティとして皇国摂政皇太子の個人所有物と化している。

 ジークハルトが彼女と出会ったのは、対トリステイン戦争が自国の完全勝利で終結し、彼の国を二つの公国に分割した直後の事であった。
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