二度目の人生シリーズ

□第一部 独立戦争
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 裏切られ続けた前世。

 二度目の人生への誘い。

 神々の娯楽のため、特典を与えられての転生を強制された。

 勝手に与えられ、しかも娯楽のためと言い切られた以上、自分は誰憚る事なく二度目の人生を謳歌する権利を有している。ならば、今生を自分勝手に好き放題して生きて見せよう。そんな想いを抱きながら、彼は駆け抜けるように十五年の時を生きて来た。

 ジークハルト・フォン・タンネンベルク。

 それが転生した自分の今の名前であり、誇りである。

 彼が二度目の生を受けたのは、ゼロの使い魔と言う作品の主要な舞台であったトリステイン王国だった。それも、やはり原作で名前の登場するグラモン伯爵家であった。と言っても、原作の主要キャラクターの一人として描かれているギーシュ・ド・グラモンに転生したわけではない。それどころか、嫡出ではない庶子として、伯爵の妾の子として生まれたのだ。

 今生での産みの母であるヴァレンティーヌは、元々はガリア王国の名門貴族の出身であったが、宮廷闘争の果てに生家が没落し、落ち延びたトリステイン王国で伯爵に見初められたのだと言う。だが、好色で知られる伯爵本人はともかく、やはり妾と言う立場は決して良い物ではない。伯爵夫人からは地味に嫌がらせを受けていた上に、そもそも伯爵家自体が財政難に喘いでいたため、金銭的には平民に毛が生えた程度の暮らしぶりであった。彼女自身、家計のために趣味でもあったポーション作成で生計を立てており、伯爵からの金銭的援助は微々たる物だったそうだ。また、結果として生まれた息子さえ父親である伯爵は碌に興味を抱かず、相当に冷遇されていた。無論、この当時のハルケギニアは中世的封建社会であったし、正妻の子は別として、庶子では政略結婚の道具としての価値も薄く、冷遇されたのは仕方のない側面もあるが。

 ともあれ、そのような境遇にこそあったが、別に母の事は嫌いではなかった。前世でも産みの母と育ての母と言う二人の母親を持っていたが、双方共に彼の事を大切に育ててくれた記憶がある。今生の母もその点では同様であり、伯爵家の人間の大半から冷遇されていた彼を庇い、時には矢面に立ってもくれたからだ。

 そんな母のためにも、彼は可能な限り早く身を立てる算段を整えようと方策を練っていた。そんな折、唐突にその機会は訪れた。今よりも七年以上も昔、彼が未だ八歳になろうかと言う頃の出来事であった。

 その年の母の誕生日に、彼は転生特典であった練金の魔法を利用して、装飾品を作りプレゼントしていた。それに感動してくれた母は肌身離さず身に着けてくれていたのだが、どう言うわけかある日を境に身に着けている姿を見なくなったのだ。不思議に思った彼が尋ねると、母は言い辛そうに答えてくれた……伯爵夫人に取り上げられ、売り払われたと。

 元々、伯爵家は必要以上に華美な軍装を整えるために、財政は火の車だった。其処へ、妾やその子供への養育費と言う“無駄”な出費が嵩む事は、伯爵夫人にとって我慢ならぬ事だったのだろう。更に、とてもではないが子供の作品とは思えない精巧な装飾品を身に着けている妾と言う図を見せられた夫人は、妾の言い分など無視して強引にそれを取り上げ、財政の足しにすると言う名分を掲げて出入りの商人に売り払ったのだ。

 当然、彼は激怒した。

 元より、彼には使い方次第で巨万の富を生み出すチート級の練金がある。その気になりさえすれば、金銀や宝石を苦もなく多量に練金する事が可能なのである。このままグラモン伯爵家にいてその能力を発揮したとしても、一生涯を飼い殺しの憂き目に遭うのは必至。ならば、未だ彼の価値が発覚していない今、ゲルマニア辺りに流れてしまうのが吉である。

 彼は必死に母を説得した。母としても、妾になったのは生活のためと言う側面があるのは否定し難く、そうであるならばグラモン伯爵よりも息子への愛情の方が強いのは自然な事である。その息子が自分同様に不当に扱われ続ける様を座視する事は、母としては容認し難かった。結果、度重なる説得によって徐々に耳を傾けるようになって言った母は、最終的には彼の提案に乗り、ゲルマニアに流れる事を承諾したのだった。

 そうして今後の事が決まれば、後はすぐだった。

 彼の練金によって旅費を稼ぎ、ゲルマニアの首都であるウィンドボナに向かう。そこで皇室にも繋がりがあるような有力商会に練金した貴金属や宝石類を売り込み、巨額の金銭を得た。そうやって二年も練金生活を送って貯蓄した彼は、ゲルマニア北西部に位置するタンネンベルク侯爵領と金銭での購入が可能な最高位の爵位である侯爵位を母の名義で購入したのである。

 タンネンベルク侯爵領は、比較的に発展した都市を中心とする広大で有力な領地なのだが、血筋が絶えてしまった事から一旦は皇室領に編入され、その後に売りに出された経緯を持つ領地だった。当然、辺境ではないので購入価格は極めて高かったが、彼の野望を叶えるためには都市開発に余計な時間をかける余裕はなかったため、大枚を叩いてこの領地を購入した。結果として二年の間に貯蓄していた金銭の大半が飛んだが、練金があれば金はまた稼げると割り切った。

 領地の購入後は、すぐに現地入りして母と共に内政に忙殺される事となった。何しろ、母子には譜代の臣下など存在しないわけなので、領内の商家の次男や三男を召し出し、或いは相応の教養を持った元貴族を高給で釣って雇い入れる事で、急造ながら家臣団を形成。金銭面では錬金と言う最終手段があったため、有能な人材を好条件で雇用し、または他方から引き抜きつつ急場を凌ぎ、二年も過ぎる頃には体裁を整える事に成功した。

 無論、取得した原作知識を使用し、今の内に青田買いする算段を立てる事も忘れていない。

 最優先して確保したのはジョゼットと言う少女だった。ガリア王国の王族でありながら王家の慣習によって存在を抹消され、貧相な孤児院で育てられたジョゼット。後々の布石として、同時に保険としてではあるが、この時点ではロマリアからも目を付けられていなかったため、単なる孤児でしかない彼女を引き取る事は容易だった。念のため、既に彼女と仲の良かったジュリオを金で雇った水メイジに操らせ、貴族に引き取られる事になったジョゼットに妬みと罵倒の言葉を叩き付けさせる事も忘れない。これに強いショックを受けたジョゼットを言葉巧みに慰め、依存させてしまえば、彼女が将来的に教皇らロマリア上層部の傀儡になる事は有り得ない。正直、ジークハルトとしても良心の呵責に苛まれたが、必要な措置であるとして割り切った。

 次いで、トリステイン王国のタルブに在住する佐々木一族。此方はゼロ戦を購入する事を目的に訪れたのだが、未だ原作の十年以上も前と言う時期だったため、何と佐々木武雄氏当人が存命であった。そこで、ジークハルトは武雄氏と腹を割って話し合い、彼と彼の一族をタンネンベルク侯爵領へと召喚する事に成功したのである。何しろ、武雄氏は戦時中に帝国海軍に所属していた仕官であり、略式ではあるが士官教育を受けた正規の軍人である。また、当人は北辰一刀流の免許皆伝の腕前であり、一族の男衆には剣の指南もしていたと言う。実際に彼らの腕前を披露して貰った所、下手な傭兵より上である事は間違いなかった。なので、諸侯軍の編成に当たっては、武雄氏の助言を受けつつ佐々木一族の中からも希望する者を仕官として取り立てた。

 更に、原作でアンリエッタ王女の近衛銃士隊を率いたアニエス。この時期、既に彼女は傭兵として活動を開始しており、メイジ殺しの実績こそまだなかったが、凄腕として有名になり始めていた。彼女の目的であるタングルテールの虐殺の犯人の究明と復讐に関しては、本来であればジークハルトが知っているはずもないので、引き入れる材料には出来ない。しかし、此方は新興とは言えゲルマニアの有力諸侯。傭兵として活動中である彼女は、好条件を提示してやれば割と簡単に雇用契約を結ぶ事は出来た。その後はタングルテールに関して思わせ振りな態度を取るなりして釣っていれば、当面は出て行く事もないだろう。最終的には、高等法院長であるリッシュモン辺りを差し出せば、それと引き換えに永久雇用も可能であろう。

 他にも、アルビオンの虚無の担い手であるティファニアと、その姉のような存在であったマチルダに関しては、時期を見計らい接触し、引き入れる予定である。

 そして、内政や軍事と同時に注力したのが、重化学工業の発展であった。ハルケギニアの現時点での技術力は、中世欧州と同程度。魔法と言う要素が加わる事で一部は近代に近い発展を遂げている技術もあるにはあるが、大半は中世で停滞しているため、産業革命が始まる気配すらない。そのため、現行技術で再現可能な物はないかと場違いな工芸品を各地から取り寄せたのだが、その中に発電機と汎用工作機械(それも冷戦終結後の日本製)を発見した時には、我を忘れて狂喜した。

 錬金によって生み出された金、銀、白金、軽銀(アルミ)、チタン、タングステンと言った希少金属、各種宝石類。これら価値の高い物品の売却益として得た巨額の財源を元に、領内のインフラ設備や各種技術開発は一気に加速した。産業の発展に伴い隣接する領地や他国からの人口流入には歯止めが利かず、それらの人員を有効利用する事で領内の発展は速やかに行われた。

 そして……この地へと流れる事を決めた時からの計画通り、ゲルマニア皇室へと独立を宣言したのである。
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