異世界から問題児と性別不明の神子がくるそうですよ?

□第二章
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――――場所は箱庭2105380外門。ぺリベット通り・噴水広場前。



ダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴的な少年、ジンは待ちくたびれた仲間の子供たちを帰し、一人石造りの階段に座り込む。

一人になって暇を持て余したのか、外門を通る人たちをぼんやりと眺めていた。

(もしも外界から来た人たちが使えない人たちだったら………僕らも箱庭に移住するしかないのかな。)

自分より、幼い子供たちを大人数抱えて…――。

ジンは新たな同士に期待を込めて想いを馳せる。力のないコミュニティはゲームホストになって主催することも出来なければ、ゲームに参加してクリアすることもできないからだ。

集団を維持できないほどの衰退。それは即ち、コミュニティの消滅を意味する。

「ジン坊ちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」

はっと顔をあげる。外門前の街道から黒ウサギと女性二人が歩いてきた。

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

「はいな、こちらの御四人様が――」

クルリ、と振り返る黒ウサギ。

カチン、と固まる黒ウサギ。

「………え、あれ? もう二人いませんでしたっけ? ちょっと目付きが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方と、神道系の和服を着て、常に笑みを浮かべて、特徴的な口調で、一見親しみやすそうに見えて、全身から“僕、問題児? いや問題児。問題児?”と二転三転するようなオーラを纏った摩訶不思議かつ性別不詳のお子様が。」


「ああ、十六夜君と遊楽…のこと? 彼らなら“ちょっと世界の果てをみてくるぜ!”と十六夜君が言い、“ちょいと果てに行って、ついでにそのヘンぶらついてくるわ〜”と遊楽も言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

あっちの方に。と指をさすのは上空4000メートルから見えた断崖絶壁。
 
街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて二人に問いただす。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「“止めてくれるなよ”と言われたもの」

「“すぐ帰ってくるから”と言ってたから」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったんですか!」

「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

「嘘です、絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょうお二人さん!」

「「うん」」

ガクリ、と前のめりに倒れる。新たな人材に胸を踊らせていた数時間前の自分が妬ましい。

まさかこんな問題児ばかり掴まされるなんて嫌がらせにも程がある。

そんな黒ウサギとは対照的に、ジンは蒼白になって叫んだ。

「た、大変です! “世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

「幻獣?」

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものたちがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ちできません!」

「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」

「冗談を言っている場合じゃありません!」

ジンは必死になって事の重大さを訴えるが、二人は叱られても肩を竦めるだけである。

黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がる。

「はあ……ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが御二人のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「わかった。黒ウサギはどうする?」

「問題児を捕まえに参ります。事のついでに――“箱庭の貴族”と謳われるこの黒ウサギをバカにしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

悲しみから立ち上がった黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。外門めがけて空中高く跳びあがった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと、

「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能くださいませ!」

黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に三人の視界から消え去っていた。


 
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