続・白幻鬼


□「第一印象がいいやつにロクな奴はいない」
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◇ 第四訓 ◇



――班池組の一件から二日後、

紫楽は店のカウンターでお茶を飲みながら、古書目録に目を通し、めぼしい商品に印を付けていた。近々市場に出回るハズの商品で、欲しいモノを見つけて手にいれる為のした準備である。だが彼はこの単調な作業に飽きてきたのか、欠伸を噛み殺して目をこすっている。
この店唯一の従業員、桜花は少し近所に配達しに出かけていて留守だ。

『(飽きた。ツマランなァ〜。なんか面白いことないかな〜)』


そんな時、〈藍猫古書堂〉に一本の電話がかかってきた。


――…prrrr…prrrrr…ガチャ

『は〜い、こちら〈藍猫古書堂〉。超マイナーな雑誌からなんでもないような小説やマンガ、超超レアものの高級本まで扱っておりま〜す。ご用件は何ですか?』

〔あ〜、店主の坂田紫楽君、居ますか? 〕

覇気のない、耳に心地いい低音の声が受話器から聞こえてきた。紫楽は悪戯を思い付いた子供のように、口の端を二ィッとつり上げた。

『〈藍猫古書堂〉店主、坂田紫楽は私です。ご用件をどうぞ〜?エロ本なら最低貸出し価格一冊十円、官能小説なら最低額一冊30円で〜す。』

紫楽は店のカウンターで、古書目録に目を通しながら、のびやかに応対する。

〔安っ!! じゃ、じゃあお天気お姉さんの結野クリスタルの写真集で…って何言わせんだこのヤロー!! ラク、俺だよ俺!!〕

オレ俺詐欺?

『申し訳ございません。私、こー見えても俺オレ詐欺をするような人に知り合いはいません。闇医者と政府高官とヤクザ、王族に皇族、始末屋に殺し屋などの暗殺者、傭兵、警察、大商家の主や豪農の地主さんならいらっしゃるんですけどね。あ、あとテロリストと攘夷志士とマッドサイエンティストとかも…。』

元幻夢隊員が多数、色んな職種に分岐してね。

〔なにそのぐちゃぐちゃに後ろ暗い交際関係… じゃなくて!!〕

『再度申しますが、オレ詐欺師に知り合いは居ません。結野クリスタルの写真集なら10冊ほどございます。一冊に付き、20円の貸出し価格。』

〔え!? ほ、本当にあるの!? ……って、そうじゃなくてっ〕

『はい、ございます。今ならプラス50円で配達サービスも承っておりますよ?どうします?借りますか?……銀時兄さん。』

〔………わかってたなら早くそう言えや。余計な体力使って損した〕

『フハハハハハハ! いい暇潰しをありがとさん! そう沈むなって銀兄。結野クリスタルのレアもんの写真集、一冊あげるからさ。』

〔マジ?嘘ついてんじゃないよね紫楽クン?〕

『マジだよ。丁度一冊ダブっててさ、棚に入りきらないの。それよりも用件は?』

〔……お前、今から出られるか? つか暇潰しに俺を弄るくらいだから出られるよな?〕

『?…銀兄、どうしたの?お金?なんかやらかした?』

〔お前の中の俺がどういうイメージなのか、一回聞いて〕

『甲斐性ナシのツケと家賃を踏み倒している愚兄の天パ。超甘党で死んだ魚の目ェした万事屋店主のマダオ兄貴。でもやるときはやる男。……とか?』

〔的確で辛辣な評価をありがとー…。ぐすっ、的確すぎて目から何かが出て……あれ?前が見えないや。なにこれ?〕

泣いてる?

『…で?本題は?』

〔あ、あ〜紫楽クン、秘密をバラされたくなかったら、今すぐ万事屋にありったけの食糧をもって来い!〕

『秘密? いったいどれのことかよくわからんが、頼み事なら普通に頼みなよ。ついでに僕の秘密をバラしたら、知り合いのお喋り連中に頼んで、宇宙規模で銀兄の秘密、有ること無いこと交えて広めるから。』

〔……スンマセン。マジ勘弁してください。調子乗ってたの認めるから〕

『アハハ、冗談さ。いくら僕でも宇宙規模はできないよ。せいぜい日本中くらいが限界…かな?』

〔その間と疑問符はなに?余計恐ろしいんですけど。つか、本当に食糧頼むわ。ウチ、今砂糖と塩と醤油くらいしかないからよォ〕

『了か〜い。砂糖はあるんだね?水とガスはまだ止められてない?あと電気も』

〔……大丈夫だ。ライフラインはまだ生きてる。まだな。〕

どうやら相当切羽詰まった状況のようだ。

『ふ〜ん、じゃ、カルメラ焼きとかお好み焼きでも作ればいいか。後は適当に腹に溜まりそうなものと非常食系…取り敢えず、適当に買って持っていくよ。結野アナの写真集とかも一緒に。』

〔頼むわ。〕

『30分後くらいに万事屋で〜』

――…ガチャンッ

紫楽は電話の受話器を置き、開いていた古書目録を閉じる。

引き出しから通帳と印鑑、現金10万円ほどを出して、財布に入れた。

『……これ、貢いでるっていうんだろうか?…ま、いっか。年末に働いてもらおう。』

ふと思ったことを呟き、別の引き出しから鉄扇と木刀――小――、買い物袋を取り出して懐に仕舞った。カウンター近くの戸棚から台車を取り出して店の入り口近くまで引いてくる。
次にお気に入りの藍色の羽織を着て、着いていたPCの電源を落とし、桜花宛てに置手紙を残して、店を閉める。ちなみにまだ昼間だ。

最後に隣の団子屋に顔を出し、

『左近〜、右近〜、もう僕の店は閉めたから、これからちょっと兄貴の万事屋に出かけてくるね〜!よろしく〜』

「あ、ちょっと長!!」

「紫楽さまっ、チョコ団子持って行ってください!」

『おう、ありがとな。行ってきま〜す。』

「「いってらっしゃ〜い。(チッ)」」

双子に心の中で舌打ちされながら見送られ、スーパーに寄ってから万事屋に向かったのだった。
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