異世界から問題児と性別不明の神子がくるそうですよ?

□第一章
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『ぎにゃああああああ!! お、お嬢おおおおおお!!』

猫くんの助けを求める悲鳴に耳をふさぎ、遊楽はくるりと一回転して“空気を蹴る”!

蹴って蹴って、蹴りまくって、下に向かう。

上空4000mから落下した三人と一匹は、落下地点に用意していた緩衝剤(かんしょうざい)のような薄い水膜を幾恵も通って投げ出される。

それを尻目に中性的な子どもは、最後の薄い水膜を通った途端、空を思い切り“蹴って”岸にすらりと着地した。

ボチャン、と背後で着水。

「ありゃりゃ。」

振り返ると水幕で勢いが衰えていたため、三人は無事で済んだが、猫くんはそうもいかなかったらしい。ちなみに三毛猫である。慌てて猫くんを栗色ショートカットの可愛らしい少女が抱きかかえ、水面に引っ張り上げる。

「………大丈夫?」

『じ、じぬがぼおぼた………!』

まだ呂律が回らないながらも無事な猫クンに少女はほっとした様子だ。

遊楽は思った。――あの猫クンも無事に膜を抜け、ちゃんと着水するものと思っていたが………落下の時、ついでに抱きかかえて一緒に岸に降りておけば良かった、と。

他の二人を探して視線を巡らす。

すると彼らはさっさと陸地に上がりながら、それぞれが罵詈雑言を吐き捨てていた。

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

毅然とした大正か明治辺りを思わせる服装をした少女の言。

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

金髪の学ランヘッドフォン少年の言。

「にゃははははは………。」

二人の言葉に遊楽は面白そうに苦笑する。石の中って孫悟空かいな――と。

「………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

「ま、それで動けるのは少数やろな。」

「俺は問題ない。」

「そう。身勝手ね。」

「にゃははははは。そうけ、ならようござんした。」

遊楽がにこにこと年季の入り過ぎるほど入った作り笑いで見守る中、二人の男女はフン、と互いに鼻を鳴らして服の端を絞る。

その後ろに続く形でショートカットの無口そうな少女が岸に上がる。同じように服を絞る隣で三毛猫が全身を震わせて水をはじく。

濡れないように距離を取り、避けようとしていたら金髪学ラン少年が話しかけてきた。

「というか、オマエ。どうやって岸に着地したんだ? 見た所、空気を“蹴って”なかったか?それがお前の力か?」

「にゃははははは。力と言えば力やね。なんの特別なこともあらへん、ただの“力”や。何?そんなに僕の事気になるん?……なんて、冗談やけど。」

にゃははは!と表面上は陽気に笑い、冷めた目で少年を観察する。どうやらこの問いから、彼も……いや、彼らもなんらかの力を持っているらしい。それが僕の能力よりも強いかどうかは知らんけど。――無駄に手の内を晒すこともあるまいて。少なくとも、相手の手の内が見えるまでは。――ま、気まぐれに任せてもえんやけどな。

少年は悪戯っぽい笑みを浮かべ、

「ああ、気になるね。とりあえずお前、性別どっちだ?」

「それは私も気になるわね。で、どっち?」


二人の少年少女の問いに、今度は力なく「にゃははは……」と苦笑して彼は言う。

「それはな、秘密だ。ご想像にお任せするとしようか。」

「フン、じゃ、男性ね?そうでしょう?」

期待に目を輝かせてビシリと指をさす少女。

「じゃあそれで。」

とりあえず、人に指をさしちゃいけません。

「なんじゃそりゃ……。ヤハハハ!お前、面白いな。」

「恐悦至極。気に入ってもらえたようで何よりです。」

笑みを浮かべたまま、芝居がかった礼をすると余計に笑う少年。

猫を抱いたショートカットの少女がポツリ。

「此処………どこだろう?」

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?」

大亀ってルンファ(ルー〇ファクトリー)かいな。それとも亀仙人?――金髪少年の返答に中性的な子どもは心の中でツッコむ。

何にせよ、彼らの知らない場所であることは確かだった。

適当に服を絞り終えた金髪少年は軽く曲がったくせっぱねの髪の毛を掻きあげ、

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前たちにも変な手紙が?」

「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。――私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。」

高圧的でプライド高そうな“お嬢様”は久遠飛鳥(クドウ・アスカ)……へぇ〜、めもめも。

「それで、そこの猫を抱きかかえている貴方は?」

「春日部耀。以下同文。」

「そう。よろしく春日部さん。」

三毛猫飼い主無口っこ、春日部耀(カスカベ・ヨウ)……ふ〜ん、めもめも。

「次に、随分と古めかしい………衣冠束帯っていうのかしら?和服を着た性別不明のあなたは?」

「にゃははは。僕の名前は四十九院遊楽や。この服装は定義的に衣冠束帯でおうとるで?ま、これは動き易いように改造しとるから、どっちかというと狩衣いう方が近いやろな。以下同文。よろしゅうな。」

自分の格好を見下ろして説明を交え、陽気に小首を傾げて作り笑う遊楽。傍から見れば柔和な笑みを浮かべるその様はテンポのいい関西弁と相まって親しみやすく感じられる事だろう。

「そう。こちらこそよろしく。四十九院さん。」

「遊楽でええで〜。」

「最後に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で野蛮で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接しておくれお嬢様」

ふむ、逆廻十六夜(サカマキ・イザヨイ)か。………ふむ、この中で一番面白そうな奴だな。二番目は春日部耀さん、か。

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」



心から傲慢そうにケラケラと笑う逆廻十六夜。

傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

我関せず無関心を装う春日部耀。

柔和な笑みを浮かべて何気なく三人を観察する四十九院遊楽。



そんな彼らを物陰から見ていた黒ウサギは思う。

(うわぁ………なんか問題児ばっかりみたいですねえ………)

召喚しておいてアレだが………彼らが協力する姿は、客観的に想像できそうにない。

黒ウサギは陰鬱そうに重くため息を吐く。


ふとその中の一人と目が合った気がした。遊楽だ。

彼は黒ウサギの方を向いて

「み つ け た ァ ………」

ニタァ…と獰猛に哂ってそう唇が呟やいた気がした。

黒ウサギはぞっと背筋が凍る。腕に出た鳥肌をさすり、目を擦った。

すると彼は先ほどと変わらず柔和な笑みを浮かべているではないか。

見間違いか?――黒ウサギは首を傾げ、また重いため息を吐くのだった。



 
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