雨上がりの虹のふもとにはTO:更紗様<お誕生日リク>

雨。
間断降り続ける雨を見上げて、溜息一つ。
その溜息を聞き付けてか、投げられる声。


[貴様まで溜息をつくと空気が澱む]

[...ごめん]


反論する気力すら無く、肩を落として謝った。
そのまま暗鬱とした眼差しを窓の外に向ける。
窓を滑り落ちる幾筋もの水滴が、景色を歪ませていた。


[ふむ...]



かたん、と小さな音が室内に響いて、真後ろに気配を感じた。
さっと振り返ると、顎に手を当てて同じように窓の向こうに視線を向ける、彼。
ちらりと視線を流した後、首を巡らせるとまた、窓の向こうに視線を戻した。
外の雨音が、事務所の中を支配する。
止みそうにない雨...のはずなのに。


[もうすぐ上がりそうだな]

[...まさか]


後ろから聞こえた言葉に、思わず笑いを含んだ声音で返してしまった。
案の定、頭を掴まれる。


[嘘です、失言でした]


降参するように両手を肩の位置まで上げれば、解放される。


[でも...止みそうになさそうだよ?]

[雲が薄くなってきている。後10分もすれば止むはずだ]


彼の言葉に、思わず振り返って見上げる。
見上げた彼の瞳は、雨のせいか何時もよりも暗さを帯びていた。


[本当?]

[貴様に嘘をついて何の意味がある]


む、と腕を組んで、見下ろされる。
確かに、彼は嘘を口にした事は無い。
ならば、本当なのだろう。


[なら、いいんだけどね]


再び、空を見上げる。
滴を降らせる空は鈍い灰色で、気が滅入りそうな重苦しさを感じさせた。
圧迫感に、思わず喉元を両手で押さえた。


[どうした?]

[何か、息苦しくて]


雨の日は、まだ心に負担がかかりすぎて。
手を喉元から離して、深く深呼吸する。
数回繰り返せば、息苦しさも薄らいで、ほっと肩を落とした。
空を仰ぎ見れば、雨が弱くなって来ている。


[弥子、貴様は虹が好きか?]

[へ?]


唐突な問いに、振り返って見上げた。
見下ろす、一対の翡翠。


[虹...。うん、好きだけど...どうして?]


問い返せば、彼の瞳が自分から離れて、窓に滑った。


[人間は脆い生き物らしく、脆く儚いものを好むと聞いたからな]


問いと答えが噛み合ってないような気がするが...。
あまり気にしない事にした。


[あ...]


彼から視線を外して同じように外に視線を戻すと、小さく叫んだ。


[雨、止んでる]


この世の終わりのような、重い雲の切れ間から青空が覗いていた。
雨は、彼の断言した通り止んでいる。


[ふむ...外に出るか]


小さく呟くと、こちらの都合などお構いなしに頭を掴まれて、ずるずると引きずられた。


[わ、分かった。歩くから頭、離して]


本日二度目の暴力に、諦めに似た溜息をついて、再び両手を上げる。


[つまらんな]


そう言いながらも、手を離してくれる彼。


(根は優しいんだよね...)


先を歩く彼の後ろ姿に、思わず笑みが零れた。





事務所を出て、雑踏の中、歩く。
背が並外れて高い彼の姿は、少々離れても分かりやすくて、見失わない。
それでも早足になって、彼の隣に並ぶ。


雑踏を抜けて、開けた場所に着いた。
人通りも絶えて、雨上がりのみずみずしい空気が、空間を潤す。
何かを探すように、首を巡らす、彼。
思わず、声をかけた


[どうしたの?]


そもそも、勝手に歩き出してしまう彼を追い掛けて、足を踏み入れたこの公園。
何か、目的があったのだろう。


[弥子、目を閉じろ]

[へ?]


彼の言葉が唐突なのはいつもの事だから、もう慣れたけれど


それでも素直に言われた通りに目を閉ざす。
と、閉ざされた瞼の上から重ねられる革の感触。


[ちゃんと閉じてるよ]


笑いを含んだ声音で言う。
突然、闇の中、片腕を取られた。
引き寄せられる。
頬を掠める風を、感じた。
後は、闇の中...。


瞼から革の感触が離れた。
目を開けてもいい、という事かと判断して瞳を開けた。
差し込む、太陽の鋭い光。
思わず、怯んで瞬きをする。
どこかの森の中といった風情のようだ。
それよりも、目に飛び込んだのは七色の奇跡。


[虹...]


大きな七色の光の掛け橋が、頭上を渡っていた。


[こんな綺麗な虹、初めて見た]


感嘆の吐息が唇から零れ落ちる。
振り返れば、辺りの景色を背後に従えた、彼。


[虹が出る事、知っていたの?]


問い掛ければ意味深な笑み。


[そっか...ありがとう]


虹に視線を戻すと、一つの話を思い出した。


[どこかの国の話でね、虹のふもとには宝物があるんだって]


少し距離を取り、くるり、と振り返って、再び彼を見上げる。
訝しげな表情の彼に、笑いかけた。
彼の足元を指し示し、言葉を紡ぐ。


[私にとって、虹のふもとは、ここだよ]


訝しげな表情だった彼の口許が、く、と釣り上がった。
鮮やかな翠の瞳が、雨上がりの澄んだ空気の中で、映える。


[ならば、ここにも、もう一つ虹があるのだな]


意味する言葉に、思わず笑みが零れた。


[うん]


――虹のふもとには、宝物が
二つの宝物の上に掛かる、七色の光の奇跡――


小さな虹の両端の二人が、ふ、と表情を緩めた頭上高くに、大きな色鮮やかな虹が悠然と、空を渡っていた。


                 END
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更紗様、お誕生日おめでとうございますww
そして、遅くなって申し訳ありませんっ(>_<)

<雨→晴>というリクエストを聞いて、真っ先に虹を想像した安易なあたしですが笑
お気に召されましたでしょうか;;??
よろしければ、お持ち帰りください;;

酔蝶花様より、更紗の誕生日祝いにいただきました。
あったか〜い気持ちにさせられる、ほのぼのラブラブvなねうやこにうっとり…///
本当に素敵な小説有難うございましたvvv

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