最遊記

□Lies and Truth
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「どうしたんですか?こんな時間に」
「お前に会いに来たに決まってんだろ?」
「っ⁈」

不機嫌に答えた三蔵は玄関に入ると、八戒を壁に突き飛ばして強引に唇を奪った。

「ちょっ…相当酔ってますよね⁉…んっ…一体、どうして…」

酒臭い口付けから漸く解放された八戒は、次に首筋へと唇を落とし始めた三蔵に焦って質問をした。

「散々呑まされたからな。あのクソ爺ィ、師匠の知人だか何だか知らんが、偉そうに…」

独り言のような文句を言いながら、手を下に移して行為を進める三蔵。
不自由な脚と松葉杖に片腕を取られて抵抗もままならない八戒は、悲壮な声で叫んだ。

「三蔵‼ここでは…」

手を止めた三蔵は、懇願の眼差しで見つめる八戒に酔っ払い特有の座った目を向けた。

「判った。貴様のベッドでしてやるよ」
「‼そういう意味じゃ…」
「つべこべ言うなら、ここで犯すぞ?」

三蔵は有無を言わさない睨みを利かせると、八戒を抱き上げて家に上がった。
酷く酔った相手に何を言っても無駄だと、八戒は諦めるしかなかった。
これ以上の抵抗は機嫌を損ねさせるだけで、そうなれば、怪我を悪化させる事になるのは目に見えている。
八戒はお姫様抱っこをされている事を恥ずかしく思いながらも、自室のベッドまで大人しく運ばれた。

三蔵は性急に八戒の衣服を全て剥ぎ取ると、自身も法衣を脱ぎ捨て八戒を組み敷いた。
行為が終わるのを無抵抗に待つつもりでいた八戒だったが、三蔵の思わぬ行動に戸惑いの声を上げずにはいられなかった。

「…さ、三蔵⁈なん…で…こんなっ…」

開始早々のフェラチオは、させられた事はあっても、された事のない行為だった。
相手に快楽を与える為だけの、奉仕的なSEX行為。
そう捉えていた八戒は、三蔵は自分に対してする筈がないと決め付けていた。
だから尚更、三蔵の行動が信じられなかった。

「止め…て…っ⁈…あぁ‼」

拒む声を無視して、三蔵は八戒を簡単にイカせた。
息を切らせる八戒に、三蔵は見せつけるように喉を鳴らして淫液を呑み込む。

「三…蔵。どうして…」
「愛してるからに決まってんだろ?」

八戒が泣きそうな顔で問えば、三蔵は平然と言い放った。

「…冗談、ですよね?…僕の反応を、からかおうとして…」
「俺に愛されるのは迷惑か?いい加減、死んだ奴の事なんざ忘れて俺を見ろよ」

酷く酔っているからどうかしてるんだと思い込むには、向けられた視線は鋭過ぎて…
今までとは違う三蔵の言動に、八戒の声も驚愕で震えた。

「…嘘だ。僕を…愛してる…だなんて…」
「信じたくない程、俺が嫌か…」

三蔵の口元に、自嘲的な笑みが浮かぶ。
見つめてくるアメジストの瞳が何処か寂しげで、八戒は胸が締め付けられる思いがした。

「違います‼けど僕は、花喃以外は愛せないんです。貴方の気持ちには応えられない。だから…嘘だと言って下さい」
「…何故泣く」

八戒の頬を伝う涙を、三蔵の親指が静かに拭う。
存外に優しい三蔵の声が、傷付いた心を隠しているようにも感じられて…
八戒は涙をこらえ切れずに両手で顔を覆った。

「貴方を苦しめる自分が…許せないから。もう…死なせて下さい」

いっそ殺して欲しいと、八戒の心は罪悪感で蝕まれていく。
追い詰められて自殺さえしかねない八戒の告白に、三蔵は諦めにも似た溜め息を落とした。

「愛してるというのは冗談だ。そういうプレイもいいかと思ったが、興醒めだな」

その辟易とした声に、八戒は信じられない思いで三蔵を見た。
見下ろす三蔵の瞳は普段よく知る冷めたもので、八戒は縋るような思いで問い掛けた。

「…本当に?」
「あぁ。だから、死ぬ事は許さん…」

その美貌は残酷なまでに神々しく、静かなバリトンボイスは耳に心地よい。
三蔵の手が、黒髪を優しく撫でる。

「そういうのも…勘違いしてしまいます…」
「愛ほどじゃねぇが、お前の事は気に入っている。それなら文句無ぇだろ?」

ぶっきらぼうな声で頬を軽くつねられ、八戒は今にも泣き出しそうな顔で頷いた。
三蔵はベッドに身を横たえると、毛布を掴んだ手を八戒の背に回して胸に引き寄せた。
もう片方の腕を八戒の首下の隙間に通すと、静かに瞳を閉じる。
寝る事を決め込んだようなその態度に、八戒は困惑した声を出した。

「あのっ…三蔵?」
「今日は何もしねぇよ。俺の方も、どうやら酒で使い物になりそうにねぇしな。朝が来るまで、このまま寝させろ」

瞳を閉じたまま、面倒臭そうに答える三蔵。
自分が抱き枕代わりにされてる事は理解出来た八戒だったが、どうしても気になる事があった。
眠ろうとする三蔵に、おずおずと口を開く。

「…腕枕してたら、痺れますよ?」
「煩せぇ。お前も寝ろ。安静にして、早く治せ」

やはり瞳を閉じたまま、眉間に皺を寄せてそう返した三蔵は、腕枕している八戒の頭を更に 胸深く抱き込んだ。

「…じゃあ、お休みなさい。三蔵…」
「あぁ」

胸の中で観念したような八戒の声に、三蔵はそれだけ答えた。

暫くすると、八戒は眠りについた。
緊張の糸が緩んだ途端に寝てしまうあたり、よほど疲れていたのだろう。
尤も、心身共に負担を大きく掛けたのは、怪我ではなく三蔵の他ならない。
三蔵の腕の中で、規則正しい寝息を静かに立てる八戒。
その安らかな表情を、三蔵は愛おしげに見つめていた。
静かな輝きを放つアメジストの瞳に今はもう、酔いは欠片も見て取れない。


今はまだ、お前の都合のいいように思い込めばいい。
いつか、お前が観念して俺の想いを受け入れるその日まで…

三蔵は再び瞳を閉じると、腕の中の温もりと共に深い眠りについた。
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