最遊記

□White Xmas
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今日はクリスマスイブ。
八戒は朝からクリスマスパーティーの準備に追われて、狭い家の中を動き回っていた。
部屋には大きなクリスマスツリーを飾り付け、ご馳走は七面鳥の姿焼きにスイーツはブッシュドノエルと定番は勿論、小さなテーブルには並べられない程の料理をこしらえていた。
更にはサンタの衣装を纏い入念に鏡でチェックしだした八戒に、傍で見ていただけの悟浄が半ば呆れながら声をかける。

「…張り切り過ぎじゃね?」
「悟空にとっては初めてのクリスマスですからね。サプライズパーティーなんですよ?サンタを信じてる悟空にバレる訳にはいきませんから」

つけ鼻を鏡で確認しながら八戒は真顔で答えた。

二週間ほど前、八戒が定期報告に三蔵の寺院に訪れた際、サンタの絵本を悟空に読んだのがきっかけだった。
八戒の持って来た絵本でサンタの存在を知った悟空が、事務机で雑務をこなす三蔵におねだりしたのだ。
「三蔵。俺、いい子にしてるから、『クリスマスには沢山のご馳走が欲しいです』ってサンタに伝えてよ」

八戒の説明で、子供が欲しいプレゼントを親に教えると、いい子にしていればサンタに頼んでくれると信じた悟空。
期待の眼差しを向けられた三蔵は、面倒臭そうに即答する。

「ここは仏教寺院だからサンタはこねーよ」
「…そうなんだ」

悟空の落ち込む姿に心を痛めた八戒が、思わず三蔵に提案した。

「三蔵、イブの夜に悟空を連れてウチに来てくれませんか?クリスマスパーティーをしたいんですけど…」
「…お前はサルにはトコトン甘いな。悟空だけでも構わんのだろ?好きにしろ。俺は公務次第だが、多分行けねぇ」

溜息混じりに三蔵が許可すると、八戒と悟空は眼を見合わせ顔を綻ばせた。

そして今に至る。

「だから悟浄も協力して下さいね」

振り向きざまに、にっこりと微笑んだ八戒が差し出した物を見て、悟浄は受け取るのを躊躇した。

「…何コレ。録音機?」
「僕が声を出したらバレるかもしれないので、モノマネの得意な悟浄に、サンタの声色を真似て台詞を言って欲しいんです」

…いつモノマネ披露したよ?

心で突っ込む悟浄を余所に、八戒は用意したメモを渡した。

「台詞はこのメモ通りの順でお願いします」

『ホッホ〜ィ。メリークリスマス‼悟空。良い子の君に、大好きなアン○ンマンシリーズの絵本十冊セットをプレゼントだ。三蔵パパに、読んでもらいなさい。ホッホ〜ィ』

「『ホッホ〜ィ』ってお前ね…俺への罰ゲームか嫌がらせか?恥ずかしいんですけど…」
「もっとしゃくれた声で元気良くお願いしますね。でないとご馳走は無しですよ?」

綺麗に弧を描いた口元でやんわりと脅迫する八戒に、つられて悟浄も頬を引き攣らせた。

納得いく元気なしゃくれ声を出すまで何度も撮り直しを強要するであろう、この悪魔のような男に抗える者がいるだろうか?
笑顔が武器とはよく言ったもんだ…

「…ワカリマシタ」
「ありがとうございます」

態とらしい程の満面の笑みを見せる八戒に、悟浄はガクリと項垂れた。

日が暮れた頃、玄関の扉が勢い良く開かれ、悟空の元気な声が狭い家に響き渡った。

「メリークリスマス‼八戒‼」
「メリークリスマス、悟空。…あ、三蔵も来てくれたんですね」

開けっ放しにされた玄関から覗いた先には、暗がりの中、歩きタバコの火を赤く灯した三蔵が見えた。

「メリークリスマス、三蔵。忙しい時期なのに、来ていただいてありがとうございます」
「ああ、仕事が早く片付いたからな」

嬉しそうに微笑む八戒に迎えられた三蔵は、素っ気なく答えて家に入ると、ソファーでくつろぐ悟浄が人の悪い笑みを向けた。

「流石最高僧様となれば、師走の忙しい時期でもクリスマスパーティーに参加する余裕な時間はあるんだ?」
「年中暇人な奴に言われたかねーよ」

三蔵は軽くあしらったが、悟浄の言葉にムカついた悟空が、三蔵を庇うように言い返した。

「そうだよ、バカガッパ‼三蔵はなぁ、今日の為に死に物狂いで仕事してたんだ…っ⁈」
スッパーン‼
「〜っ‼イッテェよ、三蔵‼何で殴んだよ⁈庇ってやったのに‼」

ハリセンで殴られた頭を抱えた悟空が、涙目で三蔵を睨むと、恐ろしい形相で睨みつける三蔵がいた。

「…煩い。黙れ!バカザル」
「…三蔵、ありがとうございます」

悟空の言葉で三蔵の疲れた顔の理由が判った八戒は、思わず笑みをこぼして感謝の言葉を改めて口にした。

「…例年を知らん悟空の言葉を真に受けるな。偶然時間が出来た迄だ。明日も早朝から公務に出掛けねばならんから、喰ったら直ぐに帰る」

幸せそうな八戒の笑顔から視線を外した三蔵は、そう言葉を返した。
『黙れ』と言われてそれまで大人しくしていた悟空が、三蔵をマジマジと見て口を開く。

「三蔵、顔赤くね?過労で風邪でもひいたんじゃ…」
スッパーーーン‼‼

さっきより小気味良い音が鳴り響いた。
声も出ない程に痛がる悟空が、批難めいた瞳を三蔵に向けると、紫暗の瞳が凄まじい殺気を放っていた。

「ごごごっ…ゴメンナサイ‼」

逃げるようにソファの後ろに身を隠す悟空。
恐怖で震える姿を肩越しに見た悟浄は、自分もろとも銃弾の餌食になるまいと三蔵を諌めた。

「三蔵、今日位は許してやれよ。今日の主役は悟空なんだからさ。八戒が悲しむぞ?」
「チッ…サル、出て来い!喰ったらとっとと帰るぞ」

眉間に皺を寄せた三蔵に警戒しながら悟空がおずおずと姿を見せると、張り切った八戒の声がかけられた。

「じゃあ、パーティー始めましょう‼」

楽しいサプライズパーティーが始まった。
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