最遊記

□If I change?
1ページ/1ページ



今日も悟空と同室の部屋割りだ。部屋の入口と反対側の奥の壁には、テレビが設置されている。
それを閲覧する為の二脚の椅子とコーヒーテーブルがあり、そのテーブルには喫煙室の証拠の灰皿が置かれていた。珍しくいい宿だ。
八戒は、隣のダイニングキッチンを借りて、悟空のオヤツに強請られたホットケーキを焼いていた。
開けっ放しの扉からは、ホットケーキの甘い香りが漂ってきていた。

「俺、八戒と入れ替わりたかったな」

椅子に腰掛けテレビを観ながら煙草を吸う俺に、背後のベッドの上でジープとじゃれていた悟空が突然切り出した。
前日の不思議な出来事を思いだした様だ。

「何でだよ?」
「だって、ジープの運転出来るだろ?それに、旨い料理作れるだろ?それに…」

延々と続きそうな言葉を遮る様に,俺は呆れながら突っ込んだ。

「あのなぁ、身体が入れ替わった位で、技術が備わる訳じゃなかっただろ?」
「そっか。三蔵だって、気功が使えるか試したけど、無理だったって言ってたもんな」

三蔵の言葉を思いだした悟空が、つまらなそうに納得した。
「…そうそう」

やっぱ馬鹿だな。こいつ。あんなデタラメな言い訳を信じるなんて。

「でも、俺も八戒に入れ替わってみたかったなぁ」
「何で?」

不思議そうに尋ねる悟空に、背中越しにニヤリと笑った。
「だってよ〜。普段八戒が絶対しなさそうな事出来るんだぜ?好き勝手出来るなんて、最高じゃねーか」
「どんな事?」

ジープと遊ぶのを止めて俺に詰め寄る真剣な顔の悟空に、俺はわざと片目を瞑って見せた。

「お子ちゃまなお前には、教えられない事」
「何だよ⁈ケチガッパ‼」

クックと笑う俺の後頭部に、聞き慣れた金属のカチャリという摩擦音と同時に、固い物が当たる。

「ほう?なら俺に教えろ」
「ゲッ‼三蔵、何時の間に⁈」

こいつは八戒絡みの話題に関しては、何処からともなく湧いてきやがる。
地獄耳とは正に三蔵の為にあるようなモノだ。

刺激をしない様に、両手を頭の位置まで挙げてゆっくり振り返ると、予想通り三蔵は銃口を俺に向けていた。

「悟空、ホットケーキが焼けましたよ〜」
「はーい‼直ぐ行く!」

緊迫した空気を壊す、八戒の優しい声が遠くから聞こえると、悟空は大きな返事をして、俺に振り返ってこう言った。

「後で教えろよな⁈エロガッパ‼」
「おい、猿!俺を独り置いてくなっ…⁈」
部屋を出て行く悟空を呼びとめようと、椅子から立ち上がろうとした動作は、三蔵によって遮られた。
ゴリッ。
銃口の痕が残りそうな程、強く額に銃を突き付けられた。

「とっとと吐かねぇと、てめえの身体に二度と戻れなくしてやる」
「白状するから、ソレをどけろ!そんかわり、絶っっ対に撃つなよ‼」

三蔵は鼻を鳴らして銃を懐にしまうと、もう一つの椅子にドカリと腰掛けた。

「何を企んだ?」
「何って、あいつが絶対にしなさそうな事っつったら、オ◯ニーに決まってるだろ?」

銃を発砲されるのではと、内心ビクビクしながら答えると、三蔵は顎に手をかけ、考え深気に正面を見据えたまま、つぶやいた。

「…なる程」
「やっぱてめえも見たことねーか。
姿見鏡の前で八戒の姿を視ながらシゴいてよ、乳首なんかもいじってみたりして、その姿をバッチリ記憶すんだよ。
あっ!セルフで写真を撮るってのもいいかも。
そしたらてめえにもやるよ。一枚一万で」

三蔵の予想外の好反応で、調子に乗って話す俺に、三蔵は人の悪い笑みを浮かべた。

「なら俺は、そのお前のケツにバイブでも詰めて泣かせてやるよ」

俺の猥談に乗ってくるなんざ、今日の三蔵はかなりご機嫌なようだ。その理由は今日の八戒の寝不足の顔を見れば一目瞭然だが。

「えぇ〜?三蔵様ったら、そんな趣味あったんだ。
いくら八戒にソレをしたら後が恐いからって、中身が俺なのにいい訳?やっぱ八戒の身体だけが目当てなんだ?」

俺は態とらしく己の身体を抱きしめて戯けてみせる。

「安心しろ。中身がお前じゃ勃たねーよ。
だが、あいつの身体は、俺がケツだけでイケるように仕込んでやったからな。お前に新しい世界を与えてやれば、あいつに手を出そうなんて思わなくなるだろうと思ったまでだ」
「…とんだ鬼畜坊主だな」

俺に対する酷い言葉と、日頃八戒に酷い仕打ちをおこなってる事を自慢気に話す三蔵に、呆れながら感想を述べた。

「面白い話をしてますね。僕も交ぜて下さいよ」

突然背後から柔らかい声が聞こえて振り返ると、爽やかな笑顔とは対照的に、ドス黒いオーラを放つ八戒が立っていた。

「八戒⁈…何処から聞いていた?」

硬直している三蔵の代わりに俺が尋ねた。

「『姿見鏡の前』辺りでしょうか?」

…殆ど最初からじゃねーか。コレは非常にマズい。

三蔵をチラリと横目で見ると、八戒に振り向けない程完全に石化していた。
八戒は、そんな三蔵の真後ろに歩み寄ると、奴の背後から椅子の背もたれに両手を置いた。
まるで三蔵が逃げ出さない様にだ。八戒の妖艶な赤い唇が、薄っすらと弧を描きながら、ゆっくりと開かれる。

「僕と悟浄が入れ替わったらの話ですよね?なら僕は悟浄の姿で、三蔵、貴方を犯して差し上げます 」
「想像させるなっ。気持ち悪い!」

俺はそう言うと、寒気で鳥肌が立った己の身体を思わず抱きしめた。

「僕は、想像出来ますよ。以前は花喃の件以降、誰も抱けないと思っていましたが、最近は貴方達のおかげで、三蔵相手なら、抱ける様な気がするんですよね」

恐い位に綺麗な笑顔を見せる八戒が、己が猥談のネタにされていた事に、怒り心頭なのは一目瞭然だった。
今の八戒なら、本気でやりかねない。

「今晩辺り、三蔵も新しい世界を受け入れてみますか?あ、バイブも試しましょう!」

八戒の恐ろしい提案に、石化した三蔵は面白い程青ざめながら、重い口を開いた。

「…遠慮しておく」
「つまらないなぁ。さっき悟浄の話に乗ってきたみたいにノリノリで応えて欲しかったのに。僕、もしかして2人の会話に水を差しちゃいました?」

八戒は軽い口調とは対照的に、三蔵の後頭部に突き刺さるような鋭い視線を向けていた。

「八戒〜!三蔵達、ホットケーキ食べないの〜?」
「悟空〜!三蔵達の分、全部食べちゃって下さ〜い!」

隣室から緊張感のない悟空の大きな声が聞こえると、八戒も語尾にハートマークがつく様な優しい声で返した。

「やったぁ‼」
「おい⁈」

俺は悟空の嬉しそうな声に焦った。
密かに楽しみにしていたオヤツだったので、八戒の非情な返事に、つい抗議の言葉が口から出かけた。
仕舞ったと思った時には、見る者全てを石に変えるメドゥーサの様な八戒の視線が、三蔵から俺に移っていた。

「折角、変態話に花を咲かせているのに、ホットケーキごときでわざわざ中断する事はないですよ。
あと、続きを一晩中出来るように貴方達は同室にしてあげます。悟空の荷物、もらっていきますね。
三蔵の荷物は、廊下に出して置きますから、ご自分で取りに来てください」

そういうや否や、俺達が何も言い返せないのを確信した八戒は、悟空の荷物を持って部屋を出た。

「相当怒ってるじゃねーか。どうすんだよ?三蔵様」
「…」

とばっちりを受けたとばかりに恨めしい視線を三蔵に向けた。墓穴を掘るとは、正にこの事だ。
実際は、おケツを掘られそうになっていたのだが…。
そこには、八戒とチェンジした晩は絶好調だったが、翌日も調子に乗ってしまった事を、かなり後悔しているであろう、未だに石化の解けない三蔵がいた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ