最遊記

□落とし前の意味
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観世音菩薩のイタズラで、身体が入れ替わった三蔵と八戒は、身体を元に戻すため、もう一度崖から一緒に飛び降りようとしていた。

「せーので行きますよ。せぇ、わ…っ⁈」

突然八戒の身体になった三蔵が、三蔵の身体になった八戒に抱きついた。
(ややこしいので、以後は中身の方の呼び名でいきますよ。)

「イキナリ何です⁈悟空達が登って来ますよ?」

動揺する八戒に三蔵は抱きしめたまま耳元で囁く。

「見られても構わんだろ。緊急事態だからな。仕方あるまい。お前も俺を強く抱きしめろ」
「だからどうしてです?」

赤面しながら身をよじって逃れようとする八戒を三蔵は力を込めて阻止する。

「解んねーのか?俺の身体は生身の人間だからな。お前の妖怪の丈夫な身体で守るだけだ。もし元に戻った時に、俺の身体がお前の気功で治せないほど酷い状態になってたらどう責任取るつもりだ?
ここで旅を終わらす気なんてねーんだよ」

八戒は回された腕を必死で振り解こうとするが、その腕はびくともしない。
これが人間と妖怪の力の差だと痛感した 。
けれど、三蔵の言ってる事は大げさすぎる。

「冗談言わないで下さい‼この程度の崖で人間でも命はおとしませんよ。
そんなにヤワな身体じゃないでしょ?」
「そうでもないだろ?現にさっきの墜落で、てめえの唇が切れてんじゃねーか」

三蔵が眉間に皺を刻みながら、八戒の唇の傷を親指の腹で優しくなぞった。
八戒はますます頬を朱に染めながら、崖を登って来る2人に目を遣る。

「この位、いつもの怪我に比べたら何ともないでしょう。ほら、悟空達が変な目で僕らを見てますよ。いい加減離して…⁈」

言葉は途中で三蔵の唇によって遮られた。
いつもと違う、少しぬるく感じる舌が、長く、執拗に口内を貪る。
自分の舌で口内を犯される奇妙な感覚に目眩を起こしそうになった時、やっと唇は解放された。

「んんっ!ん…はぁっ…」

人目をはばからない三蔵のイキナリの行動に怒りを覚える。

「ちょっと!何するんですか⁈」
「フン。気功で治せると思ったんだが、やはりこの身体に入っただけでは気功は使えないか」

白々しい三蔵のセリフに八戒は声を荒げる。

「僕がいつ舐めて傷を治しましたか⁈
手の平でしか気功は出せませんよ。悟空の前で変な事をしないって約束でしょ?」
「約束は守ってるぞ。俺の姿は変な事をしてないさ。お前の姿がやらしい事をしているのかもしれんがな」

してやったりとニヤリと笑う三蔵に、八戒は怒りで肩を震わせた。

「貴方って人は!屁理屈が上手になりましたね。」
「ならそれは、てめえの影響だろ?」

しれっと言い返す三蔵に、八戒は思わず言葉を詰まらせた。


その頃、先に崖から落ちて元に戻った悟空と悟浄は、自分達が飛び降りた場所にいる八戒と三蔵を目指して崖を登っていた。

「あーっ‼八戒が三蔵を抱き締めてキスしたー!」

先を進む悟空の声に悟浄は驚いて頭を上げた。

「何⁈」

まさかと思い、目を向ければ、確かに言葉通りの光景がある。
しかし、姿と魂が入れ替わっているのを踏まえて発言出来ないのが悟空らしくて、悟浄は呆れながら突っ込みをいれた。

「ああ?ちげーだろ、猿。驚かせんなよ。八戒がお前の見てる前でそんな事をするかよ」

八戒と三蔵の関係はまだお子ちゃまの悟空は気づいてない。
八戒が特に悟空に関係を隠しているからだ。三蔵は2人の関係を開けっ広げて堂々といちゃいちゃしたいらしいが、八戒は頑なにそれを拒否する。
バレたら健全な悟空に悪影響を与えると考えてるらしい。八戒の機嫌を損ねたら、お預けを食らうわネチネチ仕返しされるわになるので普段は三蔵も渋々八戒の言いなりになっている。
だから今日の三蔵は怖いもの知らずに思った。
何が三蔵をそうさせたのか、悟浄は皆目検討がつかなかった。
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