最遊記外伝

□除夜の鐘
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下界のとある古本屋で本を大量に買った天蓬は、レシートと共にカラフルな紙切れを数枚貰った。
店員が説明するに、商店街が主催する年末イベントの参加券だそうだ。
荷物持ちの為に同行させられていた捲簾は天蓬の持つ券を覗き込むと、興味深気に口を開いた。

「ガラガラってヤツだな。折角だからやってみねぇ?ビギナーズラックで何か当たるかもしんねぇし」
「なら、この券全部差し上げます。勝利の女神がついてると普段自慢する、貴方の実力を見せてもらいましょうか。仮に一等の商品券を当てたら、半分差し上げますよ」
「当たれば山分け、全て外せば笑い話のネタにされるってか。いいぜ、イカサマ無しでやってやるよ」

笑顔の天蓬が高みの見物を決め込む中、捲簾が余裕の態度でガラガラを回した。

「大当たり〜‼おめでとうございます‼二等賞の年越し宿泊ペアご招待券です‼」
「シャアッ‼見たか、俺の実力‼」

法被姿のオヤジが祝いのベルを派手に鳴らす中、ガッツポーズを決めた捲簾がそれを上回る大声で天蓬に振り返る。
ハズレの白玉続きで内心酷く動揺していたであろう捲簾の大人気ない舞い上がり様に、天蓬は笑顔で「ハイハイ」と軽くあしらった。


「ヘェ〜、年越し特別プランは大晦日の年越し蕎麦と元旦の御節。リウマチや腰痛などに効く温泉で露天風呂有り…結構いい宿ですね。僕、テレビで紅白を観ながら年越し蕎麦を食べる日本の風習に前々から興味あったんですよ。ありがとうございます、捲簾」

戦利品に興味を示した天蓬が、帰路を急ぎながらも宿泊先のパンフレットに目を通して感想を述べると、捲簾は呆れた声を出した。

「…お前、クリスマスにスイート取ってやろうとしたらあんなに嫌がってたのに、これはいいのかよ。旅館に年越し宿泊なんて、それこそ仲居達の好奇な目に晒されっぞ?」
「晒されませんよ。ヤる事は一つって感じがあからさまなスイート予約と、無料宿泊は全く別ですから。旅館側だって、彼女はいないがクジ引きで当てたタダ券を無駄にするのは勿体無いから男友達を誘ったんだろう的に捉える筈です」

真顔でそう断言する恋人に、捲簾は項垂れながらも日頃の不満を愚痴た。

「…あっそ。人の目をそんなに気にするなら、ついでに身なりも気にしてくれよ」
「それとこれも別物です。何で判らないのか理解に苦しみますよ」
「へいへい。」

俺にとっちゃ高くてもタダでもヤる事は同じって事が、お前こそ判ってんのかって感じだけどよ…

ムッとしだした天蓬との不毛な口論を終わらすべく、捲簾は折れて見せながらも心の中でそう毒づいた。
捲簾は天蓬の手からパンフレットを抜き取ると、一通り目を通した。

「この宿の近くで、除夜の鐘が突ける有名な神社があるらしいぜ?深夜の初詣は毎年多くの参拝客で賑わう、だとさ。折角だから除夜の鐘鳴らしに行くか」
「行きませんよ。夜中なんてクソ寒いのに。行くなら1人で行って下さい。それに除夜の鐘を突いたところで、貴方の煩悩が無くなる訳ないじゃないですか」

にべもなくピシャリと返された嫌味に、捲簾は予想外の反応をみせた。
天蓬の顔をマジマジと見ながら、思慮深気に指を顎に掛けて呟く。

「…確かに、108回じゃ突き足りねぇわ」
「?」

ニヤリと笑ってパンフレットを返す捲簾。
鼻歌交じりに上機嫌で先を歩くその姿に、天蓬は少し違和感を覚えた。
しかし目先の楽しみに気を取られていた天蓬は、捲簾の言葉の真意にその時は気付いていなかった。

大晦日、捲簾によって紅白鑑賞の中断を余儀無くされた天蓬。
除夜の鐘代わりに夜通し突かれ続けた結果、温泉の効果虚しく酷い腰痛でお正月を迎えたのは言うまでもなかった。





…下ネタばかりでスミマセンm(__)m

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