最遊記外伝

□BAD COMMUNICATION
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「お前達の処分が決まったぜ。ほら」

金蝉の部屋に足をズカズカと進めながら観世音菩薩はそう言うと、不機嫌な顔で己を待っていた相手に一枚の紙を手渡した。

天帝生誕祭の最中、悟空を庇おうとした天蓬と捲簾が乱闘騒ぎを起こし、金蝉が三人を引き連れて途中退席したのがつい先日。彼等の行為はその場にいた上層部の者達の批判を買い、急遽査問委員会が設けられたのだ。


『懲戒辞令
金蝉童子、天蓬元帥、西方軍捲簾大将
上記三名は、神聖なる祝祭での暴動を深く反省し、来週末に開催される学道院の創立祭において、終日の奉仕活動を命ずる』


文面に目を通した金蝉が不満を顕に執務椅子から睨み上げれば、菩薩は得意げに口を開いた。

「お前達を擁護したのは竜王ただ一人。本来なら降格処分の判決を、俺が取り成してこの程度で済ませてやったんだ。感謝しろよ?」
「大袈裟だな。そもそも騒いだだけでそんな大層な処分になるかよ…で、奉仕活動って何すればいいんだ?」
「天帝及び重臣を、奴らの母校の創立祭で接待すんだよ。天帝は公務の一環として招待される訳だが、毎回同じでつまらんと、学道院の理事長に愚痴たそうでな。何かいい案があるかと相談があったのを思い出して、俺がその場で提言したって訳さ。奉仕活動の内容に、堅物なじじい共を全員一致で賛同させる俺様ってすげぇだろ?」

うんざり気味の金蝉に、菩薩は長広舌にそう答えた。
嫌な予感に眉を顰めた金蝉は、怪訝な声で問い詰める。

「…婆ぁ、どんな接待を提案したんだ?」
「一教室を借りてメイド喫茶を開き、イベントを盛り上げる事。メイドには美女数名と金蝉、天蓬。勿論メイド服着用な。異性と交友関係の広い捲簾は、美女を数名集めるのは容易いだろうと提案した」
「ざけんな‼てめぇの悪ふざけに付き合えるか。あいつ等もこんな辞令受ける位なら、降格処分の方が良いと言うに決まっている!」

金蝉が怒りに任せて言葉を吐き捨てれば、菩薩の表情はそれまでとは一転した険しいモノに変わった。

「ザケてねぇさ。お前は兎も角、後ろ盾の無い彼奴等は上に相当煙たがれてんだよ。たかが騒ぎを起こしただけで、此処ぞとばかりに処分の会議が開かれたんだぜ?挙げ句の果てには西方軍の経費に無駄が多いなどと言及し始め、予算にまで口出して来やがった。二人に降格処分を言い渡す事で、自分達に反抗的な奴等はこうなると、見せしめにする魂胆だったんだろ。お前と違ってあいつ等はその辺良く判ってるから、この辞令に素直に従うだろうよ」

苦々しく言い放たれた真実が、金蝉に重い沈黙を与える。
冷徹な視線を容赦無く突き付ける菩薩に、金蝉は半ば諦めながらも不満を口にした。

「…女がいるのに、何故俺達まで女装しなくちゃならんのだ?」
「女が普通にコスプレしても、面白くねーだろ?そもそもが罰なんだから、その位しねぇと上の馬鹿共が納得しねーよ」

呆れた口調で菩薩が返せば、ムキになった金蝉は尚も食い下がった。

「なら、暴動の主犯格とも言える捲簾が女装しないのは何故だ?不公平だろうが」
「女装は似合う奴がやらねぇと悲惨だろ?お前と天蓬の女装は見たいが、捲簾は勘弁だと言う声があったからな。奴は厨房で料理でも作らせりゃいいじゃねーか。不器用そうなお前等と違って、奴は料理も出来んだろ?」
「……」

もはや何も言い返せない金蝉に、菩薩はとどめとばかりに釘を刺した。

「いい加減腹を決めろ。これは連帯責任だぜ?俺の顔に、泥を塗るなよ?」

口を噤んだまま恨めしい視線を向ける金蝉に菩薩は勝ち誇った笑みで見下ろすと、踵を返して部屋を去った。


丁度その頃、竜王は問題を起こした部下二人に辞令内容を伝えるべく、グランドでトレーニングと称して野球を楽しむ第一小隊の前に姿を現した。
監督と称してベンチで巨○の星を読んでいた天蓬がゲームを中断させて捲簾を呼ぶと、隊員達も集まって来る。
隊員達が見守る中、竜王は二人に辞令書を見せると重い口を開いて詳細を述べた。

「元帥…済まんな。私の力が及ばず、この様な結果になってしまった」
「…ま、降格や減給にならなかっただけラッキーでしょう。菩薩のマニアックな趣味に付き合わされるのは癪ですが、金蝉の女装が見られるなんて楽しみですし」

竜王の予想に反して淡々とした口調で天蓬が答えると、捲簾が上機嫌で口を挟む。

「俺はお前の女装が見れんならラッキー、て感じ?」
「そんな他人事みたいな余裕の態度で大丈夫ですか?美女の確保が出来なかったら、大笑いしてやりますから」

天蓬が冷ややかに言い放つ中、洋閏と岳陵は無言で顔を見合わせると同時に挙手をした。

「大将、我々も何かお手伝いさせて下さい‼ウェイターやホールなど、女装以外は何でもします!」
「用心棒的な働きもしますよ。メイド喫茶を勘違いして、セクハラしようとする輩がいるかも知れませんし」

体育会系の洋閏が声高らかに宣言すれば、優等生的存在の岳陵が穏やかに助言する。
我もとこぞって名乗りを上げる隊員達に、捲簾が呆れた声を出した。

「…お前等、どうせ美女や天蓬のコスプレ目当てだろ」
「理由なんてどうでもいいじゃないですか。どうせなら創立祭最高額の売上げを叩き出して、上層部の奴等を見返してやりましょうよ」

鯉昇が斜に構えた態度で勝ち気な発言をすれば、隊員達の一致団結した歓声が湧き上がる。
そんな中、永繕は眼鏡をキラリと光らせると、冷静に口を開いた。

「でしたら先ずメニューを決めないと。催し物といえど、最低10種類は必要ですね。それから萌えなキャッチコピーを考えなくては。今日の訓練は中止で、今から会議を行いましょう。竜王閣下、当日まではその準備を優先と云う事で良いですよね?」
「あ、あぁ…」

矢継ぎ早にプランと段取りを述べて許可を求める永繕に、竜王は気圧された様子で頷き答えた。

「なんだか…凄い張り切り様だな…」
「何でも楽しまねぇと、損だろ?」

異様に盛り上がる隊員達を目の当たりに茫然と呟く上官に、捲簾はニヤリと笑ってそう答えた。


後日、捲簾と天蓬は衣装サイズ確認の為に金蝉の部屋を訪れた。
「似合う服を選んで来るので期待していて下さい」
と、楽しげに言う天蓬達に
「ミニスカートを用意したらブッ殺すぞ!」
と、般若の形相で釘を刺す金蝉。
その様子を傍で見ていた悟空が
「金蝉、やっぱ俺だけ仲間外れは嫌だよ!ねぇお願い、俺も変装したいよぉ‼」
と、好奇心大勢な眼差しで申し出たのは、言うまでもなかった。
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