最遊記外伝

□失ったモノ
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男同士のSEXに、やっと恐怖を感じずに受け入れられるようになったばかりの僕。
それなのに、調子に乗った捲簾はいろんな事を試そうと僕の身体を弄び、さらには最中に羞恥を煽る指示をしてきたりする。
ベッドの上では常に主導権を握る捲簾は、僕がそれを拒むとわざとイけないように焦らして理性を奪い、無理矢理にでも強要してきた。
ただ一つを除いては。
それは唯一僕が主導権の握れる行為で、ピロートーク時に捲簾は不満そうに尋ねてきた。

「じゃあ、いつになったらしてくれるワケ?」
「ご自分で処理が出来ない身体にでもなったら、いくらでもして差し上げますよ」

内心『死ね‼』と毒づきながら、笑顔で答えたあの言葉を、僕は心底後悔した。
言霊と云うヤツなのかもしれないと…
あの時の僕は、こんな事になるなんて…考えもしなかった。

任務中に捲簾が負傷した。
しかも僕を庇っての事だった。

今回のターゲットは神経性の毒液を放出する大型妖怪で、事件は麻酔銃で捕獲完了した直後に起きてしまった。

「危ねえ‼」

捲簾の叫び声に振り返った僕は、目前に迫る妖怪の長い尾によって頭に強い衝撃を受けて地面に吹き飛ばされた。
強力な毒を持つ特質のせいか、麻酔が完全には効いていなかった獲物は最後の力を振り絞るように、突如暴れだしたのだ。
脳が揺らぐ程のダメージを受けて、直ぐには起き上がれない僕のぼやけた視界に飛び込んできたものは、怒りを露わにした妖怪の赤い双眼。
隊員達が銃で総攻撃をするも、標的を僕一人に定めた妖怪は雄叫びを上げながら、高温の毒液を吐く為に裂けた口を極限まで開けた。

殺られる‼

立ち上がるだけが精一杯の僕は逃げる事も叶わず、その絶望的な思いにキツく瞳を閉じた。

「天蓬‼」

捲簾の悲鳴にも似た叫び声が、鳴り響く銃声に混じり聞こえた気がした。
死を意識した瞬間、僕の身体はまたも衝撃を受け、地面に激しく転倒した。
眩暈がする程地面を転がったにも関わらず痛みは殆どなく、胸に馴染む重みにハッとして瞼を開ければ、視界は黒に覆われていた。

「っ!…大丈夫か?」

頭上からの静かな声に顔をあげれば、僕の頭と背中を守るようにきつく抱き締める捲簾と目が合った。

「…ええ。…お陰様で」

僕の頭の両傍に手をついて上半身を起こした捲簾は、額から汗を滲ませながら、驚く僕に苦笑いを浮かべた。

「動き鈍過ぎ。…それとも、昨夜のHで足腰にきちまったか?」
「⁈…捲簾‼」

皮肉った言葉とは反対に、捲簾の声は弱く震えていた。
青ざめた顔がガクリと僕の肩に落ちる。
動揺した僕はその名を何度も呼びながら、動かない彼の身体を支える為に上半身を起こし、その背中に手を回そうとした。

「触れてはいけません‼元帥‼」

強い制止の声に振り向けば、医療用具を抱えた永繕が僕達の側に駆け寄る。

「大将から離れて下さい‼毒に触れると危険です‼」

分厚いゴム手袋をはめながら永繕はそう言うと、僕から捲簾を引き剥がした。
うつ伏せにされた捲簾の右肩は毒液で服が溶かされ、赤くただれた肌が露わになっていた。
永繕は大量の消毒液で傷口を洗浄すると、毒が全身に回らないよう肩を包帯できつく縛る。
その様子を、僕は息の止まる想いでただじっと見つめる事しか出来なかった。

「大将‼しっかりして下さい‼」

妖怪を完全に封じた残りの部下達も、捲簾の名を叫びながら次々と駆け付ける。

「以前退治した妖怪と同じ毒なら、この血清が効くはずなんですが…」

永繕は注射を打ちながら、独り言のように呟いた。

…もしも、違っていたら?

口に出せない恐怖。
一気に激しさを増した心音に吐き気を催した時、僕の視界はグラリと歪み、意識は闇に葬られた。
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