最遊記外伝

□敖潤の憂鬱
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昨日は散々だった。
敖潤は重い溜め息を吐いた。
今日は休日で良かったと思う。天蓬達と仕事で顔を会わさなくて済むのだから。明日からまた仕事が始まるが、その時迄に気持ちの整理をつけなくては。ショックから立ち直るには、今日一日でどうにかなるとも思えんが、仕方あるまい…
敖潤はまた溜め息をついた。

昨日は、序盤は幸せだったな。

敖潤は、昨日天篷が掴んだ手首を触り、思わず笑みを漏らした。

あの時程、自分の特質な肌に感謝した事はない。どんなに心臓が脈打ち、顔が火照る程に熱くなっても、決して朱色に染まる事の無い肌は、天蓬への想いを見事に隠してくれる。しかし、捲簾という男は、そういう事に慣れていて目敏いのか、宣戦布告するかのような敵意をぶつけて来た。

更に戦いの最中に、とんでも無い事を告げてきた。
『天蓬にウェディングドレスを着せる権利』
思わずその言葉の意味を連想する。
天蓬にウェディングドレスを着せる
               ↓
天蓬を妻にする
               ↓
天蓬と初夜…⁈

淫らな妄想で、直ぐに鼻に大量の血が登るのを感じた。
ヤバイ‼
こんなに大勢の傍観者がいる前で、鼻血を出す失態なんて出来ない!そう思った矢先、捲簾の木刀が私の鳩尾に綺麗に入った。おかげで私は失態を免れた。

捲簾の真意は、どうやら本当にウェディングドレスを着せるだけだと判明した。
安堵と共に、隣で悲壮な顔をする天蓬を哀れに思った。その時の私は、不運にも私達の喧嘩に巻き込まれて1番の被害を被った天蓬に、汚名返上のチャンスを与えたつもりだった。

天蓬の女装姿に思わず生唾を呑んだ。本当は女性では無いのかと錯覚する。周りも同じらしく、その証拠に、冷やかす者は誰一人いないかった。決戦の舞台で、捲簾は天蓬のウェディングドレスのスカートを高らかに捲り上げた。筋肉質だが細く、体毛が薄いせいか、濃いすね毛が一本も生えていない綺麗な脚が覗く。
周りから「おおっ‼」っと歓声が湧き上がった。
もう少しで下着まで見えそうな高さまで舞い上がったスカートは、ギリギリの所で天蓬の日本刀によって床に叩き落される。
「ああーっ‼」
続いて残念そうな嘆きの叫び声が挙がった。私も柄にもなく思わず舌打ちをしてしまった。

捲簾が天蓬に強引に口付けた。
始めは抵抗していた天蓬が、馴れた愛撫に酔いしれる表情を浮かべたのが見えた。

夫婦関係という噂は本当だったのか。鎮まり返る傍観者達も同じ思いをしているに違いなかった。

『お前には、分からないだろうなぁ』
そう言った捲簾の気持ちは天蓬には伝わらなかったようだが、私は気付いた。否、私だから理解出来たのだろう。何故なら捲簾のその瞳は、今日奴が私に絡んで来た時のそれと、全く同じモノを宿していたからだ。奴の瞳は嫉妬の炎を完全には隠しきれずに燻らせていた。
一方で、痴態を曝してしまった天蓬は今後どういう態度を取るのだろうと心配した。
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