最遊記外伝

□金蝉の災難
1ページ/1ページ

昨晩は最低な一日だった。
寝る前にサルが一冊の本を俺に読めとせがんできた。
天蓬の部屋から借りてきたらしい。
あいにく天蓬は不在で、何故かいつも天蓬の部屋を我が物顔でくつろいでいる捲簾が代わりに本を貸してくれたそうだ。
1番のお勧めだが難しい漢字の多い本なので、俺に読んでもらえと言ったらしい。
面倒臭ぇと思いながら、難しい内容なら直ぐに寝るだろうと思い、本を手にとった。
本の前書きでホラー系の内容だと解った。
捲簾の奴、悟空を怖がらせてからかうつもりか。騙されたと怒った悟空が後で捲簾にア○パンチを食らわすかもしれない。俺も悟空をビビらすのはいい憂さ晴らしだと内心ニヤニヤしながら、しかし顔はいつも通りにクールに決めて読み始めた。
数ページ進めた時に、言葉に詰まった。男女の濃厚な濡場のシーンに話が突入したからだ。固まる俺に、悟空はどうしたのかと聞いてきた。こんな物を悟空に読む訳にはいかない。
俺が保護者だから教育上の問題で読ませる訳にはいかないというのは勿論だが、無駄に細かな描写と喘ぎ声のセリフなんて恥ずかしくて言えるか‼
あの野郎、俺を困らせる為にこの本をよこしやがったな⁈
早く読めと喚き散らすサルの声にも気づかず怒り浸透で、一向に続きを読む気配のない俺に、サルがとんでもない事を言いやがった。
「金蝉って桜の実なの?」
「は?どういう事だ?」
「捲兄ちゃんが、この本を金蝉が読めなかったら、金蝉は桜の実だって言ってた。どういう意味?それも金蝉に教えてもらえってさ」
桜の実…
サクランボ…
チェリ…はっ⁈
あの野郎〜‼好き勝手言いやがって!ブッ殺す‼
「オイ、悟空‼捲簾は今何処にいる⁈」
「知らないよ。だってこの本借りたの今朝だよ?金蝉が仕事終わるまで、読んでもらうの我慢してたんだから」
そう聞くや否や俺は部屋を飛び出して、捲簾を殴りに天蓬の部屋の扉を乱暴に開けた。

残念ながらそこには天蓬しかいなかったが、落ち着いてきた頃には奴が凄い格好をしていた事にやっと気付いた。
可愛いじゃねーか。この野郎!
しかし、『似合ってるぞ、天蓬』とうっかり言ったものなら八つ裂きにされそうな程怖い笑顔を向けている。
そんな天蓬に怒りの理由を聞かれたが、血相変えてこの部屋に来た自分は正真正銘チェリーと言ってるようなもんだと気付いて言いづらくなった。いや…チェリーでは無いのだが、信じてもらえないだろう。

天蓬が突然、よろめいた。荒い息。潤んだ瞳。蒸気した頬。震える声。原因は酔ったせいだと言うが、物凄い色香に男と解っていても俺の心臓はバ クバクしだした。
よし、今度酒に誘ってみよう。
はっ⁈何を考えてるんだ?俺は‼
思わず触れようとしたら、凄い拒絶で俺の心は少し傷ついた。

翌朝、天蓬と激しくSEXする夢を見た。いくら相手が美人でも、男相手に夢精なんて最悪だ。
汚した下着を手洗いしながら、こうなったのも全て捲簾のせいだと怒っていたら、天蓬が部屋に来た。
今1番会いたくない相手だったので狼狽えたが、
「昨日ご心配かけたので」
と言う天蓬は、いつも通りだったから気まずさが吹き飛んだ。
いつもの白衣姿ではなく、軍服姿の天蓬の登場に、悟空は珍しがって確かめるみたいに抱きついた。

胸元や背中がはだけた露出度の高いドレス姿も良かったが、詰襟が高く、細い腰をベルトで締めた天蓬の軍服姿もストイックでそそられる。

はっ⁈またまた俺は何を考えているんだ‼昨日の一件以来、俺の脳みそは天蓬をどうやら性的対象と認識し始めたらしい。
自己嫌悪で思わず壁に頭を打ち付けたくなる衝動を抑えていたら、サルに抱きつかれてニコニコしている天蓬に、サルが突然
「首、どうしたの?」
と聞いた。
咄嗟に襟の上から首筋を手で抑えた天蓬に、更にサルが
「虫に刺されたの?」
と付け加えると、天蓬の笑顔が凍り付いた。
「えぇ、殺したいほど憎い蚊でした。逃げちゃいましたが」
そう言って笑う天蓬からは、凄い殺気が滲み出ていた。
「ああ、そう言えば」
天蓬は何処か態とらしい台詞と共に、その悪魔の様な笑顔を俺にゆっくり向けた。今迄一度も感じた事のないドス黒いオーラを出す天蓬に、思わずちびりそうになった。
「今でも捲簾を殴りたいですか?」
ハイ。
と即答で言わないと殺される気がして首を縦に振ると、天蓬はうれしそうに恩着せがましくこう言った。
「そこ迄頼まれたら仕方ないですねぇ。協力してあげます」
…一度も頼んで無いんですけど。
迂闊にそう言ったら怒りの矛先がこちらに向きそうで流石に言えなかった。
天蓬は更に悟空にも同じ笑顔を向けた。
「捲簾のウエディングドレス姿、見たいですよね?」
否定気味に黙る悟空に更に「ね?」っと念を押す天蓬。結局、サルも野生の感が働いたのか、嫌とは言えなかったようだ。

そうして天蓬の手下にされた俺とサルは、奴の復讐計画に付き合わされる事になった。

                                                                     完

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ