□再会
2ページ/3ページ

「手袋、なくしてもうたん?」
泣きそうな女の子たちに、ついそう話しかけた。
それは、きっと罪悪感からだったに違いない。
電車を降りてホームに上がった時に、俺は落ちていた手袋を見てみぬふりをしたのだ。
それが、改札を抜けたらどうだろう。目の前に泣きそうな女の子たち。
しまったと思って振り向いたら、誰かに蹴られてしまったのか、拾われたのか、見えなくなっていた。
あそこで俺が拾っておけば、そう思ったのだ。
「駅員室に届けられてるかもしれへんで?行ってみるか?お兄ちゃんがついてったろ、な?」
自分で言っといてなんだが、まるで誘拐犯のようだ。
俺を見上げた瞳は少し悩むように揺れたが、縦に一度だけ振った。
こっちだ、と歩き出そうとしたとき、少し上ずった声が降ってきた。
「ねえ、これ、君のじゃない?」
差し出された手に握られていたのは、探していた片割れ。ああ、この人はとても優しい人で、自分が拾えなかったこれをなんのためらいもなく拾い、その上この子に届けるなんてことまでやってのけてしまうのか、と女の子の目線に合わせてかがんでいた俺は顔を上げた。
そこには、とても、とてもとても綺麗に笑う、あの人が立っていたのだった。
「…ありがとう」
「あってよかったな!」
手袋を抱きしめた彼女は、姉に手を引かれバス停へと消えていった。嬉しそうに、手を振りながら。
もう一度、彼…幸村クンと顔をあわせる。
少しまゆをひそめた彼は、何かを想い出そうとしているように見えた。
「それじゃ」
軽く会釈をして背を向けた彼に、昔の、必死で黄色いボールを追いかけていた、あの頃に、彼に抱いていた 憧れ が微かに、しかし確かに蘇ったのを感じた。いや、それはあの頃のままの憧れなのだろうか。自分ではコレになんと名前をつけていいのかわからない感情が、心の奥で唸った。
彼がちょうど3歩、歩いた時に俺は彼の背中をまた追いかけていたのだ。

「なあ、あのさ、もしかして幸村クンちゃう?立海の。俺、四天宝寺の白石。白石蔵ノ介ってゆーねんけど、覚えてへんかな?」





5歩目、それは再会。



→あとがきと後日談(妄想)
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ