□再会
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−−終点です。ご乗車、ありがとうございました。

聞き慣れたアナウンスで目を覚ます。
疲れがたまっているみたいで、毎日学校から帰る電車の中でリュックを抱きしめたまま眠ってしまう。幸い、終点だから乗り過ごす心配はないのだが。
ドアが開くと同時に、まるで紐を引いたクラッカーの細長い紙のように人が飛び出ていく。一旦その波が収まってからのそりと腰を上げるのだ。
最後に微かに立つ煙みたいだな、なんてとりとめのないことを考えながら改札へ足をすすめる。
ホームから改札へと伸びる階段を登り切ったところに、小さくて可愛らしい手袋がひとつ、ぽつねんと、寂しそうな影を落としていた。
皆、気づいていないふりをしているのか、もしくは本当に気づいていないのか、誰も拾おうとしない。
その流れに乗るかのように、手袋を視界の隅に捉えながらも素通りをした。
きっと、落とし主は今頃無くなったことに気が付いて泣いているのではないだろうか。
そんなことを考えながらポケットから定期を引っ張りだす。
改札を抜けた先に、まさか、自分が想像していたような光景が広がっているなんて。

そこには可愛らしい小学生の姉妹がふたり。姉のほうは怒って、どこにやっちゃったの、とかもうあきらめなよ、と。妹は、目にいっぱい涙をためて、どうしよう。どうしよう。おねえちゃん…なんて言っている。
その妹の片手には手袋が。もう片手は素手だった。
どうもあの小さな手袋の持ち主のようだった。

慌てて後ろを振り返り駅の中を目で探す。
しかし、どうにもないようだ。心優しい人が拾ってくれたのかもしれない。駅員室、教えてあげようか、と思うほどに、掃除員さんの手にあの、例の手袋を見つけた。
「あの!それ!その手袋!きっと、あの子のやつなんです」
腰ほどまでの、駅と外を区切る柵から呼びかけた。おじさんは最初、よくわからない顔をしていたが、俺があの姉妹を指差すと、ああ と言いながら渡してくれた。
それを譲り受けると振り返って少女たちの姿を探した。
すると、心優しい人が駅員室を指差しながらこっちだよって案内しているようだった。
見失っちゃいけないって小走りで近づく。
「ねえ、これ、君のじゃない?」
にっこり笑って差し出すと、驚いたような顔を向けられた。
「…ありがとう」
どうにも照れくさくって、その後言葉を継げなかったのだけれど、女の子は嬉しそうに手袋を抱きしめた。
手袋が笑った気がした。
「あってよかったな!」
さっきの案内していた人もそういって笑った。
女の子とばいばいしたあと、ちらりとその人をうかがってみた。
この、ミルクティー色の髪の毛、どこかで見たような気がする。どうも、思い出せないけれど。

それじゃ、と二人して会釈して背中を向けた。
誰だったけな、どこかで、きっと見たんだけどな。





それが、かつての四天宝寺の部長だったことに気がつくのは、彼があと5歩進んでから。



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