短編

□フェンスの向こうに恋をした
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幸村クンを初めて見たとき、頭の奥の奥の奥の方に直接銀の波動球がぶち当たったのかと思うほどの衝撃やった。つまりは、世間一般でいうところの“一目惚れ”ちゅーやつや。
ふわふわの髪に白くてすべすべな肌、ぱっちりした目や男子中学生にしては少し高い声。その全てに惹かれた。
彼の前では謙也もびっくりなほどヘタレになってまうぐらい彼を好きになった。初恋が男って…と少しショックは受けたものの、でもやっぱり好きで好きで諦めきれんくて、何度か立海まで足を運び、偵察と称して幸村クンを見に行った。しかし、声をかけることも出来なければ連絡先の交換なんて夢のまた夢。フェンス越しに彼を憧れやらなんやらが混じったキラキラした目で見つめるしかできなかった。
そんなある日、立海の練習を見に来ていたらぱたぱたとこちらへ幸村クンが走ってきた。
「ねぇ君、四天宝寺の部長さんだよね?」
「えっ…あっ俺?」
うん、君と目の前でにこにことあの幸村クンが笑っている。ああ、これ夢か。頬を抓ってみた
「…!!痛…」
え?現実?
「いつも月末に来るよね、偵察?」
「え…あー小遣いが月末になったらもらえるから」
「へー、そうなんだ。そうそう、あのさ練習試合しない?俺らが大阪行くからさ、だめ?」
もちろんやなんて何も考えずに答えたらあれよあれよという間に日付やらなにやら全部決まってもた。後でオサムちゃんと小石川に怒られるんやろなーなんて。その日の帰りの新幹線で、携帯のアドレス帳に“幸村精市”と登録してあるのを見てにやにやしてしまった。その日からたまにメールをやり取りして、ふわふわした気分になったのは言うまでもない。

ついに待ちに待ったその日が来た。夢にまでみたその日は夢より遥かに素晴らしい。
幸村クンが…あの幸村クンが四天宝寺のテニスコートに立ってる…!!
人目がなければ今すぐにでも幸村クンの立っとった場所にほお擦りしてくんのに!!
等と変なテンションになっとった俺を現実へと急速に引き戻したのは、四天宝寺の女子生徒の言葉だった
「見てみて、あの人。めっちゃかっこよくない?誰やろー?彼女さんとかいはるんかな?アタックしてこよかな」
ちょっともー、あんたイケメン見つけたらいつもそうなんだから、と隣にいた友達に小突かれながらその子は去っていった。
彼は男で、俺も男
それは覆すことの出来ぬ事実である。わかっている、そんなこと。でも、“性別”の違いというのは想像以上に大きくて、彼女たちのように簡単にアタックなど出来るはずもない。
サァッと少し冷たい風が吹いた。白石の中にも風が通った気がした。それが通り抜けたあとは、なんとも言えないような違和感を感じる
「…やねんけど、好きなんよなぁ」
先程のテンションはどうしたものかというほど冷たい声でぼそりと零す。輝きを失った瞳は、それでもフェンス越しに彼を捕らえていた。









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