短編

□賞味期限切れのチョコレートケーキ
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俺は中学生の頃、白石と付き合っていた。遠距離だったけど、それなりに幸せだった。毎日メールしたし、たまに電話だってした。何度も会いに行ったし、会いにも来てくれたし、誕生日だって祝ってくれたし。凄く凄く白石が好きだった。

一度だけ、何も言わずにいきなり遊びに行ったことがあった。その頃には片手じゃ数え切れない程大阪へ遊びに行ってたし、元々記憶力のいいほうだったから迷うことなく白石の住んでる街まで来れたけど、いざとなれば緊張しちゃって、白石の家に行く前に落ち着こうと街中をぶらぶらしてた。
あの時に見た光景は忘れられなくて、本当なんであの日大阪に内緒で行ったんだろ。なんで直接白石の家に行かなかったんだろ。
そうしてたら、白石が俺の知らない女性とキスしてるとこなんか、見なくてすんだのに。

白石は誰もが認めるイケメンで、キスしてた人も歩けば皆が振り返るような美人で、まるで絵に書いたようにお似合いだった。しかも街中。道行く人全員がその二人を見て息を呑む程美しかった。
中にはドラマか何かの撮影かと辺りをきょろきょろしていたり、手持ちのカメラで二人をぱしゃりととった人もいた。
やめてよ、あの二人を記録に残さないでって思わず叫びそうになったのを無理矢理飲み込んで、くるりと着た道を帰った。二人がキスしてたのは一瞬だったのに、凄く凄く長く思えちゃって、吐き気がした。
そのまま真っ直ぐ駅に向かって、新幹線に乗り込んで神奈川へ帰った。

悔しくて悔しくて仕方なかったけど、やっぱ女の子には勝てないから。それが本当に悔しくて、新幹線の座席で一人で泣いた。泣くなんて何ヶ月ぶりだろう。少なくとも部長になってからは泣いてない。
大阪から神奈川までの道のりは泣き止むのに充分な時間で、痛む頭を押さえながら、新幹線から降りた。

親には友達の家に泊まって来るって言っちゃったから家には帰れず、真田の家に泊めてもらった。真田は少し嫌そうな顔をしたが、俺のわがままには慣れたらしく、服も貸してくれた。



その日の夜、久しぶりに白石から電話が掛かってきたけど上手く話せなかった。





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