捧げ物

□ぼくだけの
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今日も今日とて…。

「だからぁ、来たくて来てる訳じゃないって言ってるだろ。返せよぼくの鞄」

「フッ…相変わらず照れ屋だなキミは。私に会いたいが為に毎日ここへ来ては鞄を忘れて帰るんだろう。可愛いヤツめ。」

「…お前、いっぺんその妄想脳、分解掃除したほうがいいぞ。」

はぁぁぁ。もう何度繰り返したか分からない不毛な会話にぼくはため息をついた。

御剣がぼくに向けてくれる好意は率直に嬉しい。でも、なんでこう常識の斜め上を突き進むかなコイツの思考は…。

「…もういいよ。わかった。ハイぼくはオマエに会いたくてここにきましただから鞄返してクダサイ。」

「…なんか誠意の感じられない棒読みだがまぁいいだろう。さぁ、成歩堂。」

「…なんで両手を広げてるんだよ。ぼく鞄返してって言ったんだけど。」

「遠慮しなくてもいい。さぁ私の胸に飛び込みたまえ」

「だ〜ッ!もういい加減にしろッ!」

ついに堪忍袋の緒がぷちんと切れたぼくは実力行使にでる。
執務室の入り口を塞ぐように立っている御剣に体当たりし、その手に握られている鞄を取り返そうとした。

「ぬおおおおおおっ」

御剣が倒れ込んだまさにそのタイミングで、執務室のドアが開いた。

「おわっ…ス!検事どの、大丈夫っスか?」

ひっくり返りそうになった御剣を間一髪支えたのはイトノコさんだった。

「う…ウム…すまない糸鋸刑事」

「ちょっとアンタ!どういうつもりっスか!?検事どのがケガでもしたらどうするっス!」

思いがけないイトノコさんの剣幕に、思わず言い訳めいた口調になる。

「す、すいません…ぼくそんなつもりじゃ…」

「検事どのの幼なじみだからって何でも許されると思ったら大間違いっス!アンタ少し調子に乗りすぎっス!…検事どの、どこか痛むところはないっスか?足捻ったりしてないっスか?」

御剣の体のあちこちにぺたぺた触れながら質問するイトノコさんの迫力に、さすがの御剣も呑まれてるみたい。
「あ、あぁ、どこも問題ない、刑事。」

「良かったっス。検事どののお身体に何かあったらジブン…もう…もう…逮捕っス!」

「……む」

御剣の体を支えたまま涙ぐんで暑苦しく語るイトノコさんに、御剣もなんとなく頬を染めちゃったりなんかして…。


……非常に面白くない。


「…ぼく帰る。」

「ム、まて成歩堂、鞄がどうなってもいいのか。」

「好きにしろよ。ぼくはもう二度とここにはこないからな。」

「なっ…!?待て成歩堂!!!」

「うるさいよ!イトノコさんと仲良くしてればいいだろッ!」

「なる………!」

「…………ッ!(///)」

思わず口走った言葉が何を意味するものかに気付いたぼくは、唇を噛んで俯いた。

「…もしやそれは…嫉妬してくれているのだろうか?」

信じられないとばかりに目を見張る御剣の顔をまともに見られない。

「…ッ!そんな訳ないだろ?自意識過剰なんじゃないの、お前?」

「成歩堂、ならば顔を上げて私を見たまえ。」

「……ッ……」

ダメだ…、どうしても顔が上げられない…。
俯いて自分のつま先だけをひたすら睨んでいると、フワリと良い香りがして温もりを感じた。

…ぼく…御剣に抱き締められてる…。

顔がかぁっと熱くなるのが分かる。

恥ずかしくて堪らないけど…嫌じゃ…ない…かも…。

「やっと素直になってくれたな成歩堂。私はキミ以外愛するつもりはない。安心するがいい。」

ついうっとりほだされそうになったぼくは、ふと耳にした呟きで我に返る。
「お取り込み中すまねっスけど〜」

…ちょっと待て。ここには第三者がいなかったか!?

「あの〜、ジブンが持ってきた報告書、どうしたらいいっスかね〜。」

「ぅ…うわぁぁぁぁッ!!!!」

今度こそ全力で突き飛ばした御剣が、「ヌォォォォォッ!」と叫んで床に転がった。

「ふざけんなよお前ッ!だぁぁッ!もう付き合ってられないよ、帰る!!!!!」

「な、なるほどぉ…」

床に這いつくばって手を伸ばす御剣を無情にも踏んづけて、ぼくは執務室を逃げ出した。



後で聞いた話によると、その後、大規模な減給を言い渡されたイトノコさんの悲痛な叫び声が検事局中に響き渡ったという…。




(了)
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