ミツナル語り

□二人で夏祭り
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「わぁ、結構本格的なんだ」

「うむ、賑やかだな」


8月某日、成歩堂法律事務所の敏腕副所長(本人曰く陰の所長)である真宵ちゃんのお招きで、僕らは倉院の里の夏祭りに来ていた。

霊媒の谷とも呼ばれる、普段はひっそりとした静かな里に、賑やかな出店がいくつも並び、そこそこの人出で賑わっている。

「あー、なるほどくん、みつるぎ検事、いらっしゃい。」

いつもの紫の装束の上から法被を羽織った真宵ちゃんが、僕らを出迎えてくれた。

「やぁ真宵ちゃん、お招きありがとう。」

「来てくれて嬉しいよ。みつるぎ検事も。忙しかったんでしょ?」

「あぁ、でも大事ない。良い気分転換になるだろうしな。お招き感謝する。」

優雅に一礼した御剣に、照れたように笑った真宵ちゃんが、思い出したように僕を見た。

「あ、そうだ。二人の浴衣を用意してあるんだ。屋敷に行って着替えてきなよ」

「は?僕そんなの着られないぞ。御剣は…、まぁ無理だろうな」

「む、失礼だぞ成歩堂。本人に聞きもせず」

「え?お前、着付けできんの?」

「いや、できるわけなかろう」

‐だよな〜。コイツ、見た目に反してめちゃくちゃ不器用くんだし…。って、なのになんでそんなエラそうなんだよっ。

ガクッと脱力した僕に、真宵ちゃんが笑いながら言う。

「大丈夫だよ。はみちゃんが屋敷で待ってる」

春美ちゃんかぁ。なるほど。

勧められるままに綾里屋敷へ向かうと、控えの間に通された。
そこには、頭のマゲを揺らした幼い春美ちゃんが…んん?

「遅かったわね、二人とも」

「ち、ち、千尋さんっ!」

僕らを待っていたのは、真宵ちゃんの従妹で幼い春美ちゃんではなく、彼女の体を借りて現世に現れた、今は亡き僕のお師匠さまだった。

「久しぶりね、ナルホドくん。御剣検事も」

「お久しぶりです。綾里弁護士。」

僕や真宵ちゃんとの付き合いで、倉院流霊媒道を何度も目にしている御剣は、今さら驚くでもなく懐かしそうに挨拶を交わしている。

「あれ?でもなんで千尋さんがわざわざ?春美ちゃん着付け出来るし、実際に僕何度か着付けてもらってるけど?」

ふと浮かんだ素朴な疑問を口にすると、千尋さんの柳眉がきりりと上がる。
「あなたたちのそのイカガワシイ体を春美ちゃんに見せるわけにはいかないからでしょうが!」

両手の人差し指をついと延ばし、僕と御剣の胸元に突きつける。

「あ!」

途端にその理由に思い当たり、同じく気付いた御剣と二人で真っ赤になって俯いた。

僕らの肌には、昨夜さんざん愛し合った名残の朱印があちこちに散らばっている。

なんでそれを千尋さんが知っているのかという恐ろしい事実にはあえて目を瞑り、「すいません、お手数かけまぁす」と僕は両手を合わせた。



「はい、できた。…二人ともなかなか似合うじゃないの」

キリリ、と帯を絞められ、すっかり『日本の夏』スタイルになった僕と御剣に、千尋さんが言う。

「ありがとう、千尋さん。一緒にお祭り回る?」

「いいえ、私は少しだけ真宵と話したら還るわ。春美ちゃんにもお祭り楽しませてあげないと。」

「そっかぁ、そうだよね」

千尋さんを霊媒してる間は、春美ちゃんの意識はない。
せっかくのお祭りにそれじゃ可哀想だもんね。

「あなたたち、しばらく二人で回ってらっしゃいよ。私も久しぶりに真宵とゆっくり話したいし。」
ふふ、と笑っていう千尋さん。僕たちのことなんかすっかりお見通しだ。

じゃぁお言葉に甘えて…と、僕と御剣は賑わう祭り会場へ二人で向かった。
下駄を鳴らしながら賑やかな出店を見てまわる。

「む」

ふと足を止めた御剣の視線の先には、射的コーナーの景品として燦然と輝くトノサマンぬいぐるみ。

「ね、射的やろっか?」

吹き出しそうになるのを堪えながら、顔を覗き込むと赤くなって目を逸らす。

「キ、キミがやりたいのならやればよかろう」

‐ハイハイ素直じゃないなぁ、もう。

「おじさん、一回ね」

「ハイ、まいど」

500円玉と引き換えにオモチャの銃を受け取り、コルクを詰める。

じっくりと狙いを定めて、撃つ。
コルク玉はトノサマンの右肩を掠めて、安定のよろしくないぬいぐるみがグラグラと揺れた。

「ぬおッ!」

それまで『私は興味がない』という振りを全力でしていた御剣が、思わず洩らした声に吹き出しそうになる。

「次で落とすよ。見てて」

僕は宣言すると、トノサマンの足元に狙いを定め、引き金を絞った。

一発目で重心をずらされたトノサマンは、足を掬われる形でもんどりうって(大げさ?)倒れた。

「やった、計算通り」

どんなもんだい、と御剣を見やれば、顎に手をあててフムフムと頷いている。
「さすがは揚げ足とりの名人だ」

‐なんだよソレ、誉めてないぞ。

「ホントに失礼なヤツだな、お前。」

僕は膨れっ面で、おじさんが袋に入れてくれたトノサマンぬいぐるみを御剣に突き出した。

途端にパァッと音がしそうな勢いで御剣が笑ったから、僕の機嫌は一気に急上昇。
単純だと笑いたければ笑え。
でもさ、普段は仏頂面の鬼検事が、浴衣姿にぬいぐるみ抱いて破顔してるんだよ。
こんな顔、僕にだけ見せてくれるんだって思ったら…うぅ〜だめだニヤける…

「む?なにを笑っているのだ?キミの笑顔は大変に眼福だが」

‐いや、お前もな!
つか、こんな人の多いところでさらっと何を言ってるんだよ!
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