IS 不思議な翼

□Chapter2 二人の転校生
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六月頭の日曜日

俺は一度家に帰って来ていた
というかいままで忙しくて、やっと帰ってこれたと言った方がいいかも知れない
まぁ、家でくつろぎたいなっていうのが本音だ


「それで、学園生活の方はどうなんだ?」
「んー・・・ぼちぼちだなぁ」
「うぅ・・・」


さすがに、いきなりIS戦で負けたとかは言いたくない
凰との試合はかん口令だし、思えば話せるようなモノがない


「つーか今話しかけてくんなよ。この映画今いいところじゃないか」
「つれねぇこというなよ」

今見ている映画は『死神の断罪4』。死神が悪行を行った人間を断罪してゆくという内容で、タイトルからも極めて分かりやすい、シリーズ第4作目
分かりやすいことはとてもいいことだと、お兄さんは思う

映画自体は、死神が迫っているという《対象(ターゲット)》が感じる恐怖や、逃げられないと悟った時の対象の絶望などがすごくリアルに描写されていて面白い

逃げる対象(ターゲット)。死神は対象(それ)の足を痩せこけた手に持ったクロスボウで射抜き、痛みに絶叫を上げている対象(えもの)に、ゆっくり近づいてゆく
必死に逃げようとするが、足を射抜かれた痛みで動けない


ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる死神
必死に叫びをあげ、来ない助けを求める対象

そして、死神の鎌で断頭。断罪終了


その時に移される死神の、紅く光る瞳のアップ(次はお前だ、的なドヤ顔)は何度見ても恐怖を感じるほどだ






ほら、今も

バァァン!
「『みぎゃぁぁぁっ!!!』」
「うぉっ」

女の子の悲鳴が聞こえる・・・っておかしいな。今回のターゲットは40過ぎの男だったはず・・・

あぁ、みさとか
親父の影に隠れて死神に震えている
・・・ちょっとかわいそうだ

「・・・みさとをほうっておいていいの?」
「いいんじゃないの?本人が『大丈夫だよ!』っていってたからな」

でも小学生にはきついんじゃないのかな?これ


『うぅ・・・マスター。止めてよぉ』
いやだ、止めない。コレも学びの一環だよ
『こんなの知らなくたって・・・』

そういや、IS学園にいってから変わったことが一つあったっけ?

『アル』。俺のISであるアルカナの《コアの意識》だそうだ
ISの意識というものは通常コアの深層にいるらしい
だがどういう原理かは知らないが、こいつはそれが人格を伴って顕在化しているらしい

知識欲豊富な知りたがりで、この世のすべてを知りたいとか
彼(彼女?)の声は俺にしか聞こえないため、その存在を他者に証明する術は今のところ無い
ちなみに織斑先生に話してみたが、にわかには信じがたいと言ったので、親父たちにはいっていない

戦闘ではデュ○メスやケ○ディムのハ○のように、機体の姿勢調節やビット操作など、俺のいたらない部分を補ってくれている


「それよりもさ、IS学園への招待券ってないのか?」
「ねぇよバカ親父。それに、もしあってもお前にはやらん」
「ケチくさいこというんじゃねぇよ。俺の銃器コレクション持って飛びこんじまうぞ」
「不審者とみなされて逮捕、そのまま独房入りなんてパターンだけはやめてくれよ」

というか、そのケースしか思い浮かばないぞ


「それにISを使わなくても、武術とかそんなん習ってたりするのが多いからあっという間にやられるぞ。多分」
「ちぇっ・・・」
「そうそう。さっき学園について聞いて来たよな」
「おう、で、どうだ?彼女イナイ歴=年齢に終止符はうてそうかい?」
「そこはほっとけ。・・・まぁ、女子三人寄れば姦しいとは言ったもんだ。ついていくのがやっとっていうか」
「爺みたいな事を言うんじゃねぇよ」

うるさい

「まぁあれだ、彼女ができるかどうかなんざ、環境による。環境は、自分で動かなければ変わらないぞ?」
「なんで彼女作りが前提なんだよ」
「だってほしいだろ?」
「そりゃ、まぁ・・・」
「じゃぁ頑張んな」



そのあとの部屋のなかは、不安の渦のなかに誘うような死神のテーマと、みさと(とアル)の悲鳴が聞こえるだけになった






「お、もう昼時か。みさと、薫、出るぞー」
「「はーい」」

親父は料理ができない
だから俺やみさとが休みの日の昼飯はほとんどが外食
あとは、時々お袋が作るぐらいだ

『お前らに食わせるにはまだ早い』とか何とか言っていたから、練習はしているんだろうな

で、移動中

「親父、いいとこ知ってんのか?」

俺たち柳瀬家は、俺のIS学園編入とお袋の転勤によってこの町に引っ越してきたため、この辺の地理はあまり詳しくない
親父もしかりだと思っていたが、どうも昼間から色々回っているようで迷うことなく進んでいく

「ん?もちろんだとも。ここだよ」

そこには、看板に『五反田食堂』と書かている食堂だった

「《早い!》《安い!》《うまい!》の三拍子が揃っている上、《近い》という、まさに四拍子揃った食堂なのだよ」

見つけて以来、ちょくちょくお世話になっているとのこと

「あ、看板娘が《可愛い》で五拍子だな。うんうん」

どうも評価ははなまる100点のようだ
店に入り、空いている席につく

「で、何食べる?」
「じゃぁ、俺は焼き魚定食」
「みさとはカボチャ煮定食ー」
「じゃぁ俺は業火野菜炒め定食一つで。すいませーん」

そう、親父が呼ぶと、お店の人であろう女の人が、注文を取りに来た

「焼き魚定食と、カボチャ煮定食。それに業火野菜炒め定食を一つずつで」
「はーい。いつもありがとうございます」

にしても・・・

「看板・・・娘?」

いや、綺麗だけどさ。綺麗だけど娘というのは少し無理がある
どっちかっていうと、美人女将とかそういう感じじゃん、あの人は

「いや、あの人じゃないよ。真の看板娘は・・・」

そういって、親父はあたりを見回す
すぐに目標のものが見つかったのか、動きをやめる

「あの子だよ。蘭ちゃんっていうらしいよ」

そう言った方向を見てみると、中学生だろうか。女の子が昼ごはんと一緒に座っていた

六月に入ってから急に暑くなったためか、白い半袖のワンピースを着ている
頭に巻いたバンダナ?はトレードマークということなのだろう。普通に似合う

「へぇ。可愛いじゃん」
「だろう?常連のなかにはファンクラブ同盟を作ろうなんて動きもあるらしいぞ」
「ふーん・・・」
「おまちどうさまでーす」

「お、来たな。じゃぁ作ってもらったことに感謝しながら、ゆっくり食べよう」
「「はーい。「いただきまーす」」」

もぐもぐ
もきゅもきゅ
むしゃむしゃ

「この焼き魚いいな。ご飯が進むな」
「このかぼちゃ、甘くておいしー!」
「この味はしょうゆか。ほかには・・・ショウガか?」

三者三様、色々な食べ方をする俺たち
家族といえど、さすがに食べ方まで同じなどということは無い


ガタン!

「お、お前、何言って―」

急に、椅子の倒れる音がしたため、反射的に俺たちはそっちを向く

スコーン!

振り向いたときには、すでに声の主は倒れていた
近くにオタマが落ちていて、頭を押さえているところから察するに、オタマがドタマにクリーンヒットしたのだろう

俺達はとりあえず見なかったことにして、食事に戻る
こういうところの意思疎通はさすが家族と言うべきか


もぐもぐ
もきゅもきゅ
むしゃむしゃ


「・・・一夏!お前すぐに彼女作れ!今月以内に!」

ん・・・一夏?何故ここで奴の名が?

そう思ってまた声の主の方を見てみる
そこには、一夏がいた

「あら、一夏?おー・・・」
「お兄」

さっき親父が教えてくれた看板娘、蘭ちゃんがそんなことを言って、さっき倒れていた奴に近づく
なるほど、お兄さんだったのか。兄妹して頭のバンダナ?が目印ってことか

ぐわしっ!

そのまま、お兄さんが振りむいた瞬間に蘭ちゃんはアイアンクローをかます
口封じだろうか。というか、なんか妙に空気が冷えた感じがするんだが、俺だけ?
お兄と呼ばれた男は、ただただ必死にうなずいているだけだった

・・・粋がって夫婦喧嘩してみたけど、まったく頭の上がらなかった時の親父にそっくりだ

「ごちそうさまーっ!」
「ごちになりました」
『食べ終わってないの、マスターだけだよ?』
「げぇっ!?さっさと食わないと・・・」


がつがつがつがつがつがつがつがつ


結局、一夏にコンタクトをとることは出来なかった
というか、入る余地がなかった





『あー・・・怖かった・・・』
「ったく、ビビり過ぎだっての」

学園への帰り道、震えたような声でアルが話しかけて来る
アルがビビっているのは、午前中に見た『死神の断罪』だろう
時間が結構たっているというのに、頭から離れないようだ

『マスターは怖くなかったの?』
「いやね、実を言うと死神のアップがちょっと怖かった」
『だよねー。アレを怖がらない人はいないと思うよ。・・・みさとちゃん、今日眠れるのかな?』
「あれだ、死神は悪い人のところにしか出ないんだから、みさとのところに出る訳がないだろ?親父がそういうふうに安心させるって」
『そういえばお母さんは?』
「仕事」

今は親父が《主夫》をやっていて、母が働き手なのだ
何をしているのかはよく分からないが、日曜出勤があったり、教師というものは忙しいようだった
ちなみにみさとが生まれるまで共働き。どっちが世話するかちょっと話した結果、くじ引で今の役割へと落ちついたのだ

最初は忙しかったようだが、みさとも次第に手がかからなくなり、俺も手伝いするようになったりで、次第に親父は時間にゆとりができてきていた

『というかお父さん、銃器コレクションとか言ってたけど、なんなの?』
「エアガンさ。本物じゃないよ」

ほんで、その暇な時間を使ったのが《銃》。
種類はもとより、射撃の腕前の方もピカ一で、標的がどんなに動いていようが必ず当ててしまう

余談だが祭りの時に、射的屋の店主と、景品を欲しがってた子供を泣かしていた
おとなげねぇの


『じゃぁ今度、銃について教えてもらったら?博物館の時も色々語ってたし、詳しいんでしょ?』

たしかに、気持ち悪いくらい詳しい
親父の持ってる銃系統の武器に関しての知識を訊いたら、それこそ日が暮れるまで語りだしそうなほどに

「悪くは無いと思うけど、実銃とエアガンは違うだろ?」
『それもそっか。はぁ・・・コーチを見つけるのって大変だね』

結局、セシリアの講義は《クラス対抗戦まで》という期限付きだったため、対抗戦直前に総仕上げして以降、一夏の方にかかりきりになっていた

「ホイホイとコーチの集まってくる一夏が羨ましい・・・」

それこそ、渾名をコーチホイホイとでもしたいような
・・・いや《唐変木オブ唐変木ズ》でいいか

『だよねぇ・・・』
「『はぁ・・・』」

どちらからもなく溜息が出てくる俺たち

「・・・よし。一夏にちょっとしたイタズラをしてやろう」
『え?何するの』
「簡単だ。夜、あいつが寝ようとしだしたときにさりげなくさっきのホラー映画の続編を流す。それで一夏は眠れなくなる」
『・・・陰湿すぎない?というか、持ってきてたの?』
「おう。またゆっくり見ようと思ってな。それに俺が眠れれば、俺に実害は無い」
『いや、そういう問題じゃないと・・・』
「大丈夫だ。問題ない」
『・・・すでに失敗しそうなんだけど』





で、その夜

9:02PM

「おーい、一夏。コレ見ようぜ」
「ん?なにこれ?『死神の断罪5』・・・すげぇやな予感しかしないんだけど」
「とてもハートフルで胸の中が暖かくなる物語だよ」
「ウソだっ!」
「まぁまぁいいから、ピッ」

・・・・・・・・




バァァァン!
『「「うわぁぁぁぁっ!」」』




1:32AM

「ね、眠れねぇよ・・・どうしてくれんだよ薫」
「知るか・・・・俺も眠れねぇ」
「あの部屋の隅、《何か》がいる気がして仕方な・・・」
「やめろ!余計眠れなくなるだろ!ただでさえ目を閉じれば死神が浮かんでくるというのに・・・」
『こわいようこわいようこわいよう○△◇☆□・・・・』
「あぁ・・・幻聴が聞こえてくるようだ・・・」
『ひどいよ・・・』


結局、俺たちは二人(+一機)揃って寝坊。初夏の青空の下、出席簿の音が鳴り響くのだった


スッパーン
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