IS 不思議な翼

□Chapter1 IS学園
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悲しいことに、世界には博物館を作り上げてしまえるほど、数多の種類の武器・兵器がある

剣、槍、弓、大砲、戦車、銃器、毒ガス、航空戦闘機、爆弾、戦艦、核弾頭・・・

数え上げたらきりがない
しかも、古代から今までで、武器・兵器が生みだされなかった時代なんてないのだろう
なぜか?

人種・国・宗教・思想の相違、経済的な利潤、怨恨、腕試し、一時的な激情

考えてもみれば簡単で、古来からずっと、人類同士で争う理由に事欠かないからなのだろう
早い話が、『人類の歴史には、常に争いという影が付きまとっている』ということだ

その事実に否定的になり、絶対の平和を求めるのか
その事実を受け入れ、戦争を"必要悪"と割り切るのか

そこは俺の知ったところではないが、いま一つだけ言いたいことがある

それは・・・





「・・・家族旅行で『国立兵器歴史博物館』なんてところをコースにするな!」

春休み使っていくところなのか!?
もっと他に行くところがあるだろ!?
海とか山とか川とか月とか!

いや、月は無理か・・・

とにかく、何でよりにもよって兵器博物館なんて物騒なところに・・・

「何を騒いでいるの薫(かおる)。恥ずかしいからやめなさい」

お袋。周りを見てみろ。俺たち家族以外に誰もいない
だからって叫んでいいわけではないが

「いやー、兵器と言っても多くの種類があってだな・・・」

そうだ。うちのおやじがミリオタ(軍事物オタク)だったんだっけ
つーか、一人で行け!

「おにいちゃん、はやくいこーよ」

こんな小さな娘(小学5年生)を連れてくるところじゃねぇ!

「・・・と、さまざまな進化を遂げてだな」

ミリオタよりは兵器オタなのかもしれない

「はいはい。誰も聞いてないから。とにかく入った入った」
「うっ・・・すいません」
「ほら、薫、みさと、置いてくよ」
『はーい』

親父はいつまでたってもお袋に弱い





博物館の中は、誰もいないのに空調が完備されていて、とても快適だった
入口付近にはテーブルや椅子が置いてあり、歩き疲れた人の休憩場となるのだろう

つーかどれだけ広いんだこの博物館

「古今東西全ての時代・土地の兵器があるなんて話だからな。展示品の数も一日で回りきれるようなもんじゃないんだろうな」

へー・・・

「ホントは全部をじーっくり見たいんだが、今日は下見がてら、さっと見て帰ろうか」
「はいはい・・・」

古代の武器、中世の兵器、近代の兵器と続いていて、時代による武器の変遷・進化が見て取れた
正直何が書いてあるかは見当もつかなかったが、次第に機械化・自動化されていってることだけは、なんとなくわかった

銃に関していうなら、いまでは引き金引いてズドン
昔は弾込めて、火薬詰めて、火をつけてと、ややこしいことこの上なかったらしいのに

「まぁ、そうやってすぐ撃てるようになってしまったせいか、銃で命を落とす人も増えてるんだよ」
「だろうなー。銃は、引き金を引けばそれだけで人を殺せてしまうようなシロモノだし」

誰かいってたな『ナイフや拳と違って、銃は人を殺したという感触が残らない』って
罪の意識も軽くなってしまう訳だ

「もし、銃を持つ機会があったとしても、それを忘れるんじゃないぞ」
「はーい」

んだよ、まるでここから先、誰かが銃を撃つ機会があるみたいな言い方じゃないか
俺は、そんな機会願い下げだぞ

「よしよし。みさとはいい子だな」
「えへへー」

あ、みさとはひょっとしたら持っちゃう機会があるのか
このご時世だもんな・・・

おそらくは一番金かけているであろう、現代兵器の展示場へと移る
ベレッタ等の拳銃、M14やM4等の自動小銃、RPG等の対戦車ロケットと、銃火器系統の項目が続いている
そんな中、突然妙な物が目に入ってきた

「あ、みさとしってるよ。あれ、『インフィニット・ストラトス』っていうんだよね」
「あら、みさとは物知りね」
「えっへん」

偉いでしょ、とでも言いたそうに腰に手を当てて胸を反らしているみさと
お袋が撫でると、気持ち良さそうにはにかんでいた

今の今まで銃器ばっかり目に入ってきたから、妙な物だと思ったが、決して『現代兵器』の欄においては妙ではない
むしろ、コレ関連のものがないことにはいまの時代、兵器博物館なんて名乗る資格はないんじゃないかと思う

『インフィニット・ストラトス』

名前だけ知ってるその兵器

通称IS(アイエス)と呼ばれるこの"兵器"は、もとは宇宙空間での活動を想定した、マルチフォームスーツでした。開発当初は見向きもされなかったISでしたが、『白騎士事件(※)』を契機にその有り余るスペックを注目され、いつしか『世界最強の機動兵器』として扱われるようになりました。ISの中枢となるコアはブラックボックスとなっており、女性にしか起動できないという不思議な特性に関してなど、未だ解明されていない部分が多いのが現状です。兵器としても高すぎるその性能から、各国は『アラスカ協定』を結び、軍事的利用を制限するようになりました。

※白騎士事件の詳細については、お近くの『現代戦史』をご覧ください

と、IS説明のディスプレイは語っている

「ISが世に出回るようになってから、既存の兵器はただの鉄屑同然となったなんて言われてるよ」

それなんてチートだよ・・・
その説明ディスプレイの奥には、退役した第一世代のISや、開発が終了した第二世代の量産機の模造品(レプリカ)が、世代の簡単な説明とともに並べられている

というか『このISは本物と同じ素材を用いた模造品(レプリカ)です。ご自由に触れて感触を楽しんでください』ってなんだ。レプリカなら壊れてもいいってか?
それとも、壊れないようになってんのか?
・・・いや、足元に細かい部品の欠片が散らばってる

展示物への扱いではないな

「へぇ・・・やっぱり冷たいのね」
「このレプリカって、本物のISの素材をつかっているのか?どれぐらいかかるんだ?」
「かっこいー」

三者三様、それぞれの反応を示している
みさとに至っては、ばしばしはたいている
あ、ちょっと欠けたぞ

「・・・はぁ」

隅に目をやってみると、妙な物を見た
ISのレプリカであることは、この一覧にある以上間違いない
問題は、その形だった

他のISのように洗練された、鋭いシルエットと違い、まるい。とにかく丸っこい
小学校に通っているみさとが、図工の時間に粘土で作ってきた『ひと』くらい、丸くて歪だった

「これも、IS?」

『傾斜装甲』とか言う戦車装甲もあったよな
たしか跳弾させることで、装甲本体へのダメージを軽減するとかいうやつ
でもアレって、人型兵器に使うものか?

えーと、他には・・・

形を歪にすることのメリットを考えてみたものの、人型のマルチフォームスーツに採用できるようなものじゃないことに気がつき、考えをやめる
俺の思考も、随分と親父に感化されているらしい

「・・・」

なんとなく何も考えずに
いや、何も考えていなかった訳ではない、純粋な好奇心があった


俺は、そいつにふれた


キンッ
『見つけたよ。ボクのパートナー!』


「は?」

そんな声と、金属質の機動音が頭に響く
色々なイメージが流れ込んでくるような、来るべくしてここに来たような、そんな不思議な錯覚を覚える。ぐちゃぐちゃなのにスッキリ。本当に不思議としか言いようのない感覚が頭の中を駆ける

「ちょっと薫、アンタ何して・・・」
「お母さん。お兄ちゃんはどうして光ってるの?」
「みさと、じっと見てたら目が・・・うぉっ、まぶしっ」

目の前のISは光を放ち、最後には『現代兵器』の展示場全てを飲み込むほどの光を放つ






そして、一瞬のうちに、『消えた』

「え?え?・・・え?」

目の前にあったISと思しきなにかは消え失せ、見覚えのない鎖が手の中にあった
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