Sweet Cage

□【5】夏休み-承-
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八月三日。
千重との待ち合わせがあるから、朝から早々と市内に行くために駅へと向かった。電車もバスもそんなに多くは運行していないため、時間に余裕を持って出かけないと後々大変な事になる。本当に不便な所だと思うが、生まれ育ったこの村が俺は好きだった。
一日数本しかやってこない電車に乗り、松本市へ向かう。
そういえば、村の外に出るのはこれが初めての事だった。そんな事を考えながらぼんやりと窓の外の風景を眺める。初めは緑ばかりだった風景に、段々と建築物が増えてくる。電車を何度か乗り継ぎ、松本市内に着いた事には緑がほとんど見られなくなった。
都会に住む人間から見たら、まだある方なのかもしれないが、田舎の村で過ごしてきた俺からすると、そうは感じられない。
俺が目的地の駅に着いたのは11時過ぎだった。学校見学の時間は13時。互いに昼食は別に摂って合流する約束になっていた。
慣れない街並みを歩きながら、ファミレスを見つけた。村にも観光地の方…隣町に一軒だけあり、俺も使ったことがある。唯一地元と同じような施設を見つけたため、俺はここで食事を済ませる事にした。
見学予定の学校との距離も近いし都合が良い。
席に着き、食事をしながら持参した本に目を通す。本当は問題集でも見ていた方が良いのかもしれないが、とてもそんな気分にはなれなかった。
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