長編草子
□白いキャンバスに、君を描いて
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「なんで?」
「なんでって、高柳が起こせっつーから」
「え、あ…高柳くん!」
慌てて立ち上がると由利はドアの横に立つ高柳にかけ寄った。
二言三言と言葉を交わし、
途中で、くるりと振り向いて佐久間を見る。
「佐久間くん、ありがとう」
にっこりと微笑んで、由利は高柳と一緒に教室を離れた。
「なんだ、あれ?」
「佐久間知らねえの?」
首を傾げる佐久間に友人たちが寄ってきた。
「岡田さんて美術部じゃん?人物画が得意で、都内のコンクールで何回も入賞してるし」
「それと高柳と何の関係があるんだ?」
クラスメイトの岡田由利が美術部なのは知っている。
全校朝礼でしょっちゅう表彰されているのを幾度も見たことがある。
午後の授業は完全免除で、
いつも一人、美術室で絵を描いているらしい。
教室にいる時も、寝ているかぼんやり友人の話を聞いているかで、
薄ぼんやりとした印象しか残っていない。
「なんか今高柳をモデルに学校の紹介ポスター描いてて、あいつ野球部のエースだし、放課後は無理だから一週間だけの約束で授業中貸し出されてるって話だぜ」
「ていうか岡田ってそんなにうまいわけ?」
「さあ、俺も知らない」
「俺、岡田の絵見たことないんだけど」
話し続ける二人から、佐久間は目を窓際の席へと移した。
やっぱり思い浮かぶのは、眠っている横顔だけだ。
「変な女」
起こした時の驚いた顔が、まだ脳裏に残っていた。