おニューtext

□マスクの下
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ORCのベクター×バーサです。





「さぁ、思う存分飲みましょう!」


楽しげにフォーアイズが言う。その手には既に、ワインがなみなみ注がれたグラスが握られていた。フォーアイズの言葉に乗せられるようにしてそれぞれアルコールを手にし、グラス同士を軽くかち合わせた。その乾いた音を合図に、飲み会がスタートした。


「ちょっと、つまみが足りないわよ!」

「まだまだ…飲み足りないな……」

「クリスティーン、歌います!」


任務が一段落した後だからか、みな明らかに羽目を外している。次々とグラスを空けては新しいものを注文し、それをすぐに飲み干しては注文をするといった行動を繰り返していた。
俺はというとまだ二つ目のグラスに少しずつ口をつけているところだった。アルコールが弱いわけではないが、あまり羽目を外すということに慣れていないからだ。まして、俺達はアンブレラ社の特殊工作部隊で、アンブレラ社が裏で何をしているかを知っているのだ。酔っ払った勢いで、もし裏事情を口に出そうものならいつ消されるかも分からない。
俺が羽目を外さないのにはそういった理由があった。しかし、仲間達はそんな事は微塵も考えにないようだ。


「ちょっとベクター?」

「全然飲んでねぇじゃねぇか」

「そんなことはない」


程よくアルコールの回ったらしく、あまり飲んでいない俺に絡んでくるようになった。所謂、絡み酒というやつだ。ベルトウェイやフォーアイズはほんのり赤みがかった顔に楽しげな笑みを浮かべ、焦点の定まらない目をしていた。
あまり絡まれては面倒だ。そう思い、仕方なしにグラスの中のものを飲み干した。すると満足したのか、今度はルポに狙いを定めたようだ。ルポは急にしがみ付いてきたフォーアイズの頭を撫で、静かに笑っていた。"狼の母"といわれる彼女にとって、絡み酒など子供をあやすのと同じくらい簡単らしい。


「何見てるの?」

「!……バーサ」


背後から不意に声をかけられ、僅かに肩を揺らすと同時に振り向く。すると、ブロンドの髪を掻き上げるような仕草をする、バーサが居た。


「何も…ぐっ!?」


バーサは少しばかり空を仰いだと思えば、俺の言葉など気にする様子もなく勢いよく懐に飛び込んできた。それは熱い抱擁とは言いがたく、肋骨が軋んだような気がした。これではまるでただのタックルだ。バーサの全力のそれをなんとか受け止めた俺は静かにそう思った。
胸板に埋めていた顔を上げたバーサからは、強烈なアルコールの匂いがした。相当飲んだらしかった。


「飲みすぎだ」

「なーに?つれないわね」


バーサを引き剥がそうと細い肩を軽く押しのけると、バーサは不満げな声を出した。まったく…、そう小さく呟きバーサを引き剥がすのをやめた。すると、バーサは嬉しげに頬を擦り付けてくる。
俺より四つも年上だというのになんて子供のようなのだろうか。俺は無意識のうちにブロンドの髪に手を伸ばした。


「ちょっとぉ、イチャつくなら他所でやってくれなぁーい?」

「!!」


苛立ちの含まれたフォーアイズの声に、反射的に伸ばした手を引っ込めた。


「何ようるさいわねぇ。妬まないでほしいわ。ねぇ?」

「妬んでなんかないわよ!」


俺に抱き付いたままフォーアイズを煽るバーサに冷や汗が流れた。見えるわけではないが二人の間に火花が散っているような気がする。このままでは面倒なことに巻き込まれるに決まっている。俺はすぐにそう悟った。
俺はバーサを立ち上がらせると、ルポの方へ顔を向けた。


「後は任せた」

「分かった。さっさと帰ることだな」

「ああ」


ルポに押さえられているフォーアイズが何やらうなっているがそんなものは無視だ。俺はとりあえず、バーサを連れて自分の部屋に戻った。
足元のおぼつかないバーサをソファに寝かせ、水を取りにキッチンへと向かう。コップ一杯の水なんかで酔いが醒めるとは到底思えないが、ないよりはましだろう。足早にソファに向かった。


「おい、飲め」

「うー…んん?」


バーサは重たげな体を起こし、コップを受け取ると喉を鳴らしながら飲み干した。空になったコップを受け取ろうとしたがそれはできなかった。
突然腕を引かれ、唇に柔らかいものが押し付けられた。見開いた俺の目に映るのは閉じられた瞼と長い睫毛、白い肌だった。時間がとてつもなく長く感じた。口付けられていると理解するまでにかなりの時間を有した。
俺はとっさにバーサの体をソファへと押し退けた。バーサの体はいとも容易くソファへ沈んでいく。自分でもわけの分からない早鐘のような動悸に一人驚いた。
失敗した。そう思った。何故自分の部屋なんかに連れてきたのだと、自分を責めた。わざわざこんな所に連れてくる必要もないというのに。なんて浅はかなんだ。
だが、ふと、思い出したことがあった。それは、自分とバーサとの間には口付けなんてものはなんでもないことだということだ。
一般的に言うのであれば、恋人同士、ということだ。
別に忘れていたわけではない。ただ、あまりにも唐突すぎて頭が追いついてこないのだ。


(……水が必要なのは俺の方だったな)


ソファで寝息を立てる一人の女をちらりと見て、大きく溜め息を吐いた―――





























裏にいこうと思ったけどやめた(笑)


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