奉納品
□マフラー(天津飯)
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「…さむい。」
小さく聞こえた声に天津飯は右下を見下ろした。繋いだ手をぎゅっと握った少女は眉根を寄せて難しい顔をしている。
その頬と小さな鼻の頭は北風に赤く染まっていて、そこだけ花が咲いたようだと天津飯は思った。
「さむい!」
「だから今日は寒いと言っただろう。」
先ほどより大きくなった声に天津飯は苦笑した。家を出た時少女は寒くないと言って、彼が用意したマフラーも手袋もしないで飛び出したのだった。
「ほら。」
だからと言って放って置くわけにもいかない。天津飯はしゃがんで自分に巻いていたマフラーを外すと泣きそうになっている少女にふわりと巻いた。
「あったかい…でも天ちゃんのは?」
「オレは平気だ。」
「でも今日は寒いんだよ!!天ちゃんも巻くの!はい!」
マフラーの端を掲げてさっき自分が言われたセリフを返す少女にくすりと笑って天津飯は彼女を抱き上げた。
「これでいいか?」
「うん。」
少女は満足そうに頷き自分と天津飯にぐるぐるとマフラーを巻き付けた。
「あったかいね。」
「そうだな。」
「あ!ゆき!」
見上げると鉛色の空からちらりと雪が落ちてきた。
胸の温もりをきゅっと抱きしめて、天津飯はゆっくり歩き始めた。
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