無双ビーエル
□ぜんぶ
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俺には馬鹿みたいに愛してる男がいる。
窓際の席だ。
長めの色素の薄い色をした髪が、風にそよいで揺れている。
冷たそうな眼差しの先は黒板で。
繊細な指がシャーペンを持ちながらノートにすべり、綺麗にまとめられたそれは、一度だけ借りたことがあったがとても解りやすかった。
(……平和だな。)
斜め後ろの席から、飽きる事なく眺める。
あから様はよくない。
少し間を空けて。
隣に座る(つまりこの愛する男の真後ろの席だ)正則は、さっきまで早弁してたと思ったら、もう寝てやがった。
「………三成。」
小声で呼べば、めんどくさそうにこちらを少し見る。
大丈夫だよ、あの先生じじぃだから耳遠いし。
「…三成。」
「………なんだ。」
声も好きだ。
髪を耳にかける動作をした。それ、なんかたまんないよな。
「…今日、ウチくるだろ?」
「……いいだろう。」
偉そうに返事をして、もう俺にそっぽを向ける。
可愛くない。
けど可愛い。
(……平和な世だ。)
三成に出会えてから、つまらないだけだったこの世のすべてが愛しい。
頬杖つきながら目を閉じる。柔らかい風に、俺も正則みたいに寝てしまいそうだ。
まだ出会ってからひと月しかたってない。のに。
(もっと早く出会いたかった。お前のすべてが知りたい。早く早く早く、ぜんぶ手にいれたい。)
入学式で出会ってから、積極的に距離をつめてきた。
驚くほどの警戒心もだんだんと和らいで、今じゃたぶん、クラスでは一番仲良いはずだ。
中学が一緒だったらしい幸村や兼続をのぞけば、だが。
終業のチャイムがなり、俺は席を立つ。
三成の横にいき、帰ろうぜ、と話し掛けた。
「まだホームルームがある。」
「待てない。」
「待てもできないのか犬以下め。」
口は相変わらず悪い。
俺は三成のカバンを持って教室を出る。
三成は追ってこない。
どうやらホームルームに出るようだ。
しかたなしに駐輪所で待つ。
(早く…もっと仲良くなりたい。)
気ばかり焦ってしまう。
大丈夫だ。落ち着け。
生まれてきた意味を、俺はわかっている。
「馬鹿。何か大事な連絡があったら…貴様のせいだからな。」
(しあわせに、なるためだ。)
(しあわせになりたい。)
(今度こそ、二人で。)